【島人の目】今年のマスターズを顧みて


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 世界中の人々が固唾(かたず)をのんで見入る米国で開催されるイベントは多々ある。男子ゴルフのメジャー第1戦、マスターズ・トーナメントもその一つだ。毎年4月初旬に米ジョージア州オーガスタで開催され、PGA(アメリカプロゴルフ協会)のメジャー大会の中でも伝統ある競技である。

 今年は有力選手のほとんどが優勝戦線から遠のいて、4月9日の最終日に残ったのはスペイン出身のセルヒオ・ガルシアと英国のジャスティン・ローズ選手であった。ローズ選手は2016年のブラジルのリオデジャネイロで行われた夏季オリンピックの優勝者で、すでにメジャーの優勝経験者。ほとんどの人が彼の優勝を信じたはずであった。

 対するガルシア選手はメジャーでの優勝の経験はない。過去に多くの機会に恵まれたが、最終日に崩れ、優勝を逃した経験に泣いてきた。

 共に9アンダーでの最終18番ホールでも、2人ともパーで上がり、優勝者決定に至らなかった。プレーオフでもう一度、18番ホールに戻り優勝決定戦が行われた。ローズ選手はドライブで大きく右側にそれ、木の下にボールが転がりボギーに終わり、バーディーで上がったガルシア選手が優勝を手中にした。

 ボールがカップに吸い込まれるようにして沈んだ瞬間、ガルシア選手のフィアンセが両目を押さえて感涙にむせんだ。そしてローズ選手の妻とハグ、その後ガルシア選手と肩を抱き合い、観客に満面の笑みを振りまいていた姿が忘れられない。

 最終18番ホールで優秀な2選手は見事なショット。2打目ではグリーンにオンした後、グリーンにたどり着くまでお互い手を握り合って、健闘をたたえていた。普段ゴルフのメジャー大会でそのような光景に巡り会う機会はめったにない。

 マスターズ初優勝の大きなチャンスだけに闘志むき出しの試合となるはずであった。なぜなら優勝者と2位とでは賞金に大きな差があり、双方は火花を散らし、戦略として胸の内を見せないのが普通なのだ。

 だが、両選手とも、そのような態度はみじんも見せず、手を取り合ってグリーンまでたどり着いたのだ。同じヨーロッパ系だからであろうか、同じ外国人プレーヤーとしての心情であったのかもしれない。胸のすくようなスポーツマンシップを垣間見ることができた貴重な試合だった。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)