『沖縄県史各論編6 沖縄戦』 平和構築への出発点


社会
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『沖縄県史各論編6 沖縄戦』沖縄県教育委員会 沖縄県教育委員会・5000円

 『沖縄県史各論編6 沖縄戦』が3月に発行販売された。これまで県史は一般に販売されず学校や図書館でしかみることができなかったが、昨年『沖縄県史各論編8 女性史』が販売されたことは喜ばしい限りであった。すでに本書は完売し、増刷の予約受け付けが沖縄県教委のHPで始まっている。

 県史料編集所は復帰前からいち早く沖縄戦における住民証言を収集し、復帰前後にその成果に基づき三巻を発刊。以後、各市町村史を中心に地道に住民証言の聞き取り調査が行われ明らかになった沖縄戦の実相を基に、沖縄戦研究は深く豊かになってきた。その成果の集大成として若手の研究者を含めて編み出したのが本書である。

 社会科教育を研究し教えるものとして、本書を手にとって考えた内容を述べたい。この3月新指導要領が告示された。その当否はともかくとして、「深く考える」能力育成が中心に据えられたのは画期的である。教師にとっても「深く考える」能力を鍛えていくことが必要であるがその達成は容易ではない。沖縄におけるその「素材」の一つとして、本書が最適であると私は考える。沖縄における平和教育の伝統が「深く考える」能力を鍛える場を提供してきたという側面があるからでもある。本書は、沖縄戦だけでなく、沖縄戦の記録・継承という平和構築の営みも視野に収めている。沖縄戦に関する先人の知恵の結晶が本書である。

 本書には詳細な索引が付いている。教員が、子どもに自分ごととしての沖縄戦を教材にしたいと思った時、地域に即して索引から本文を探し出す。本文だけでは納得しないことが出てくるであろうが、ここは「深く考える」能力育成には肝要な点である。

 そこで本書の脚注欄に注目したい。脚注欄には、注記以外に参考文献・用語解説・引用史料の原文が収められており、極めて興味深い。まさに本書は沖縄戦追求のための素材の宝庫であり、出発点となっている。授業をつかさどる教員が「深く考える」能力を楽しく修得できる場が提供されたのである。

 (里井洋一・琉球大学教育学部教授)

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 沖縄県史編集事業 県は1993年度から新県史編集事業に取り組んでいる。「各論編6 沖縄戦」は考古、近世、古琉球、近代、自然環境、女性史に次いで7冊目となる。