浦添市広報 沖縄戦を特集


この記事を書いた人 琉球新報社

 【浦添】72年前の沖縄戦で激戦地となった浦添市の前田高地を舞台にした映画「ハクソー・リッジ」(メル・ギブソン監督)が制作されたことを受け、浦添市が広報誌やホームページなどを通じて歴史の継承に取り組んでいる。市は他にも戦跡巡りなどの開催も予定している。

平和特集に取り組んだ上江洲芳樹係長=9日、浦添市役所

 映画の主人公のデズモンド・ドスさん(故人)は、聖書の戒律である「殺すなかれ」を守り、武器を持たない衛生兵として沖縄戦に従軍。75人の負傷兵を救った。同作品は第89回アカデミー賞で録音賞と編集賞を受賞した。
 昨年11月に米国で映画が公開されて以降、前田高地には多くの米軍関係者や観光客が訪れている。浦添グスク・ようどれ館で受付をしているNPO法人「うらおそい歴史ガイド友の会」の会員は「毎日のように観光バスが来るようになった。日本で公開されたら、もっと増えるかもしれない」と語る。
 市国際交流課広報広聴係の上江洲芳樹係長は昨年11月、「ハクソー・リッジ」の舞台が浦添市であることを市民から聞き、約半年かけて広報誌での特集作業に取り組んだ。現場や市内の戦争体験者への取材、市史の確認などを経て完成した特集は、広報誌6月号の3分の1を占める力作となった。
 特集では、沖縄戦で浦添の住民約2人に1人が犠牲になったことや、4戸に1戸が一家全滅だったことを掲載。戦争の悲惨さを記事と分かりやすいデザインで伝えている。
 市のホームページでは、小型無線ヘリによる空撮や戦争当時の写真、地図などを活用し、前田高地の戦闘を解説している。前田高地は標高148・1メートルで、北側は絶壁となっている。米軍はのこぎりで切ったような崖だとして「ハクソー・リッジ」(糸のこの尾根)と呼んだという。
 米軍にとっては、首里城にある日本軍の司令部を攻略する上で重要な場所だった。日米による激しい戦闘は12日間にわたって繰り広げられた。
 上江洲係長は取材中に、激戦地だった前田高地で遊び回る子どもたちを見て「何げない風景こそが平和そのものだったんだ」と気付いたという。「映画をきっかけに、浦添から平和を発信する人が増えれば」と切実に願う。
 上江洲係長は「映画を見た後に、前田高地を訪れてほしい。より当時の様子がイメージしやすくなるはずだ」と期待した。
 「ハクソー・リッジ」(配給・キノフィルムズ)は24日から全国公開される。(安富智希)