『沖縄鉄血勤皇隊』 平和への思い込めた原点


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『沖縄鉄血勤皇隊』大田昌秀著 高文研・2160円

 私は今、台湾の「湾生」のドキュメンタリー映画を製作していている。戦争末期に男子中学3年生が軍に召集され陸軍二等兵になり、戦闘要員として配置されたことを取材していた。その最中、大田昌秀さんの『沖縄鉄血勤皇隊』が届いた。台湾軍の予想は外れ、米軍は沖縄に上陸し壮絶な地上戦の末、軍人、軍属と共に県民の4人に1人が犠牲となった。

 1945年3月末、何の法的根拠のないまま13歳以上の沖縄の男子中学生1800人余が動員され、戦場で1550人余が戦死した。彼らは鉄血勤皇隊と呼ばれ陸軍2等兵の階級がつけられた。大田さんもその一員だった。

 当時、沖縄師範学校男子部の大田さんは鉄血勤皇隊で情報宣伝の千早隊に配属された。砲弾が飛び交う中を壕から壕へ走り回った。

 県下12校の中学生は鉄血勤皇一中隊、二中隊、三中隊、農林隊、水産隊、工業隊、商工隊、開南隊、宮古中隊、八重山隊と編成され戦場で傷つき倒れた。

 本書は各鉄血勤皇隊の学友たちが、いかに動員され戦闘に参加し戦死したかを証言と記録に基づいてつづられている。

 九死に一生を得た大田さんは「私は生き延びた意味について考えざるを得なかった。その結果、思い至ったのは、私の生は、文字通りあえなく死去した多くの学友たちの血でもって、購(あがな)われたものに他ならないということであった」。それ故「鉄血勤皇隊員たちの非業な戦死状況について後世に記録を残さねばと思うようになった」(あとがき)。それは沖縄戦についての多くの著作のある大田さんの原点と言えるものだ。

 また大学教授、県知事、参議院議員を経て自ら平和研究所を率いる大田さんが原点に立ち平和への想いを込めた一作であったと思う。戦争の犠牲者は子ども。少年少女が兵士として仕立てられる現実もある。元鉄血勤皇隊の大田さんの怒りが、本書を読むとひしひしと伝わってくる。本著の発行日の6月12日は大田さんの92歳の誕生日。この日に亡くなられた。ご冥福を祈る。(林雅行・映画監督)

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 おおた・まさひで 1925年、久米島生まれ。45年、沖縄師範学校在学中に鉄血勤皇隊の一員として沖縄戦に参加した。戦後は琉大教授を経て90年~98年まで県知事。主な著書に「沖縄の民衆意識」「総史 沖縄戦」など。6月12日に死去。

大田昌秀編著
四六判 320頁

¥2,000(税抜き)