【島人の目】“返還交渉人”


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 8月にNHKで放送予定の沖縄の日本復帰に向けた外交交渉を描いた特別ドラマ「返還交渉人」について、興味深い事柄があるので少し触れてみたい。

 今から45年前の5月15日、沖縄はアメリカから日本に返還された。ドラマは日本のプライドをかけ、アメリカと闘った1人の外交官、当時、北米一課長だった故・千葉一夫さんに焦点を当てたものだ。日本のため、沖縄のためを貫いた千葉さんの外交交渉姿勢は壮絶な体験が原点にあり、それを支えた夫婦の愛と絆があった。ドラマは「実話」に基づいた“返還交渉人”の物語となっているという。

 千葉さんは、沖縄返還の外交交渉の最前線にいた実在の人物だ。戦時中、海軍の通信士官だった千葉さんは沖縄を圧倒的な武力で攻撃する米軍の無線をただ傍受することしかできなかった。戦後、外交官となった千葉さんは妻の恵子さんに「いつか、沖縄を取り戻す」と誓ったという。

 千葉さんの息子、明さんは在ロサンゼルス日本総領事を務める。5月12日に沖縄復帰45周年記念レセプションを開催し、6月2日に開催されたロサンゼルス交響楽団を支援する晩さん会では日本舞踊ではなく琉球舞踊を起用し、尖閣諸島に対する中国・台湾の不当な主張と日々闘っていることなど、父親の沖縄返還にかけた思いと重なる。

 明さんは「千葉一夫が一般に知られていないのは父が黒子に徹して決して宣伝しなかったからであり、だからこそ、NHKが佐藤栄作総理の秘書官であった楠田實氏の遺した文書や外務省の公文書を閲覧する過程で、余りに何回も千葉に言及しているので、調べを重ねるうちにまずはドキュメンタリー、そして今回のドラマ化に至った」とドラマ化の経緯を語った。

 沖縄を舞台としたNHKのドラマは「ちゅらさん」や「テンペスト」、大河ドラマ「琉球の風」などが大作であろう。今回の作品が制作者側の努力により、知られていない史実を探り当て興味深いドラマに仕立て上げ、視聴者にどのような感動を与えることができるのか、8月の放送が待ち遠しい。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)