『地の骨―安岡伸好作品集』 喜界島からの眼差し


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『地の骨―安岡伸好作品集』北島公一編集 喜界町文化協会・2500円

 北島公一編集「地の骨-安岡伸好作品集」は、「平成28年度明治維新150周年かごしま文化力向上提案事業」の助成金により出版された作品集である。郷土出身の埋もれた作家を掘り起こすという助成金の利用は革新的といえる。また本作品集は、筑紫女学園大学文学部教授松下博文による安岡の小説六編の喜界町図書館への寄贈がきっかけとなり出版されている。これは、研究と地域の連携が、その文化振興を成す新たな形を提示している。

 喜界島が生んだ作家安岡伸好は二度、注目を集めた。一度は、1958年上半期第39回芥川賞の候補作に「地の骨」が選ばれた時である。この時安岡は40歳、芥川賞は気鋭の新人作家大江健三郎の受賞となったが、安岡は選者永井龍男から「注目した」という言葉を受けている。そして今一度は、奄美群島を表現の場とした島尾敏雄が安岡の「遠い海」の書評を、地方新聞「南日本新聞」紙上に載せ、「遠い海」に限らず安岡の仕事全般を「奄美の人と風土が文学として定着され得る道がまず開かれた」と評価した時である。

 安岡の作品はどれも虐げられたものから、弱者からという意識で描かれている。「地の骨」には19世紀初頭、搾取される奄美群島の島の様子が描かれている。そこには一つの共同体に生きる人々個々の姿やことばが描かれ、これは他作家には見られない独特のものといえる。

 また「遠い海」は、朝鮮戦争下の在日朝鮮人の問題を描きつつ、主人公上月を奄美出身者と設定する。「日本の敗戦によつて、朝鮮人は祖国を恢復し、上月は故郷を失つた」、「彼はそこになにか強い一つのものを感じた」という上月の感慨は重い。さらに上月は「広島で傷ついた」存在とも設定される。

 しかし、こうした芥川賞の候補に残ったのみで、さらに単行本を2冊しか残していない安岡のような作家の作品を読むことは、一般的に難しい。この意味でも本書が先のような形で安岡の代表作を網羅し刊行した意義は大きいのである。そこに集められた作品には紛れもなく、喜界島から近代システムを相対化する眼差しが刻印されている。(小嶋洋輔・名桜大学上級准教授)

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 きたじま・こういち 1949年奄美大島生まれ。大島高校、東洋大学を卒業後、埼玉県庁とコンピューター会社に勤務。現在は喜界島郷土研究会事務局長。島尾敏雄顕彰会会員。