【島人の目】いつかある日


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 芥川賞受賞作家の村上龍さんへの憧れが強い。

 コラム集「すぐそこにある希望」もそうだが、私が最も興味を持って見ているのが、NHKのインタビュー番組「カンブリア宮殿」だ。ずいぶんぜいたくな番組だなと思いつつ、つい引かれてしまう。億位の年商のビジネス成功者にアプローチし、その秘訣(ひけつ)を探る。過去に破産した経験者、先代からの事業継承者などがクローズアップされ、ずいぶん難問題に遭遇したんだなと感じる場合もあるが、悲壮感はない。見ている人は安心して見ていられる。しかもインタビューする側のアシスタントには女優の小池栄子さんを置き、彼女の存在感が番組を盛り上げていることは間違いない。

 同じ芥川賞受賞者の又吉直樹さんも「オイコノミア」というNHK番組を持っている。大学教授の経済学者を講師に迎え、若者にとって身近なテーマを切り口に、経済学の原理を分かりやすく説明しているが、華やかさやスケールの大きさという面では「カンブリア」とは段違いの差があると私には思える。オイコノミアとは経済学(エコノミクス)のギリシャ語の語源である。

 前回の私の「島人の目」で、米紙ロサンゼルスタイムズのスティーブ・ロペス記者について書いた。彼のコラムのスタイルは恵まれない人や団体にスポットを当て、なぜそのような人生を歩まなければならないようになったのかを探索し、ドラマチック性のあるものを発表している。「路上のソリスト」の主人公は精神障害を患い、ロペスさんは何度も自分は彼に殺されるのではないか、という不安に駆られたと述懐している。そこまでしてなぜコラムを書くことを追求しているのだろうか。これは私の推測だが、ロペスさんは強いキリスト教信者でヒューマニズム、あるいはフィランソロピー(人類博愛主義者)の持ち主ではないか、という結論である。

 簡単に3人の特徴を捉えてみたが、私にとってどの人が理想かどうかを問われれば、間違いなく村上さんを選ぶ。村上さんに私は理想の人物像をみるからだ。いつかある日、自分にそのような日が舞い込むことはあり得ないが、せめて夢だけでも見せてくれまいか。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)