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そう遠くない将来、体験者の生の証言という「ヒト」の記憶を通して沖縄戦を継承することはできなくなる。その時に、戦争遺跡(戦跡)や遺物という「モノ」の記憶から私たちは何を学び、伝えることができるのだろうか。その問いに対して長年真摯(しんし)に向き合ってきた著者が、自ら「成果の集大成」としてまとめたのが本書である。
本編では、県内に数千以上ある戦跡の中から149カ所を選び、詳細に説明している。その文章からは著者の研究者としての顔と、教育者としての顔の両方が垣間見えてくる。数多くの体験証言や史料などに基づいた詳しい記述は、長年戦跡をはじめとした沖縄戦の調査を進めてきた研究者ならではである。
また、それぞれの戦跡の形状や細かな痕跡の意味についての説明は、長年現場で生徒や学生に沖縄戦を語ってきた教育者ならではである。それに加えて、本文中にはそれぞれの戦跡を管理する団体の連絡先も書かれている。それもあり、この本があればすぐに現場を訪れることができる。巻末の地図から身近な戦跡を探し、現場での学習に役立ててほしい。
そのように本書は優れた戦跡ガイド本であると同時に、著者からの多くの問題提起も込められている。例えば、本書では各種の慰霊碑なども「戦争遺跡」として紹介されているが、これは意見が分かれる点である。
著者は、慰霊の塔・碑は厳密な意味での戦争遺跡の範疇に入らないと認識を示し、その上で「塔・碑の建立場所で形を見ることによって建立者の想いが伝わり、沖縄戦理解につなげることができる」と書いている。私見では、戦後作られた慰霊碑などと戦時中に使われた「モノ」では学び取れることが決定的に異なるため、慰霊碑などは戦争遺跡ではないと考えており、著者と私の間で少し異なっていることが分かる。
今後「モノ」を通して沖縄戦を伝え、学ぶということは一体どういうことなのだろうか。本書を通して、多くの方と一緒にそうした根源的な問題についても考えていければと思う。
(北上田源・大学非常勤講師)
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よしはま・しのぶ 1949年、宮古島市伊良部生まれ。高校教諭を経て現在沖縄国際大教授。共著に「沖縄陸軍病院南風原壕」。「沖縄県史」「豊見城村史」「玉城村史」などに論文多数。
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