【島人の目】北斎展で見た三つ子の魂


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 先頃、イタリア・ミラノで開かれた北斎展を見に行った。ミラノでは1999年に大規模な北斎展が行われて以来、かなりの頻度で江戸浮世絵版画展が開かれていて、浮世絵への理解と関心が高い。

 展覧会では葛飾北斎のほかに歌川広重と喜多川歌麿の作品も展示された。合計の展示数は200余り。展示作品は全て素晴らしかったが、会場で展示物の面白さにも負けないくらいの興味深い場面に出くわした。

 展覧会は規模の大きい人気の催し物で人出が多かったのだが、その中におそらく保育園の年中から年長組程度と思われる小さな子どもたちのグループがいて驚いた。引率の2人の先生に従って、至極まじめな顔で展示物を「見上げている」姿がかわいらしく、かつ印象的だった。

 「三つ子の魂百まで」とは幼児の性格のことをいうことわざだが、小さな子どもが優れた芸術品に接触した記憶は、学問や教養や学習うんぬんというよりも、魂に深く染み込む記憶となって蓄積し、やがて発酵して、将来どこかで独創力となって花開くのではないか。

 芸術の国イタリアには、美術館や博物館などが「無数に」という言葉を使いたくなるほど多くある。僕はドキュメンタリー番組の仕事でよくそこを訪ね、いろいろな場所で課外学習や鑑賞ツアーの学生集団に出会った。優れた芸術作品に容易に接触できる境遇にある彼らの中からは、次代の芸術家が生まれやすくなる。芸術品の宝庫であるイタリアは未来の芸術家の宝庫でもあるのだ。

 それにしても、北斎展で出会った子どもたちの姿は、独創的と称賛されるこの国の底力を見せつけられたようで、僕は素直に「すごいなぁ」つぶやくと同時に、日本の状況を思ってため息も出た。
(仲宗根雅則 イタリア在、TVディレテクター)