『八重山諸島の稲作儀礼と民俗』 豊かな意味世界を描く


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『八重山諸島の稲作儀礼と民俗』石垣繁著 南山舎・12960円

 本書は著者が教職につきながら、半世紀近くも八重山郷土研究会の会員として、「折に触れ、八重山の民俗文化への思いの一端を書き綴って」きたという諸論考によって編まれている。三つの章に分けられ、「第一章 八重山の稲作儀礼」「第二章 八重山の神歌」「第三章 八重山の民俗」となっている。

 第一章では稲作儀礼を播種、田植、成長過程、収穫の四時期に分けて扱っている。それに対して、第二章では白保、川平、新川、新城島など、四地域の収穫儀礼における神歌を取り上げている。それら二つの章は、八重山における稲作儀礼およびその各場面に織り込まれた歌謡を同時に把握する点において共通している。第三章では歌謡のみならず、祈願の口上や呪文まで取り込んだ、八つの論考を収載している。

 随所に文書まで駆使した貴重な民俗の解説がなされている。例えば、種もみは「夏水に浸けて冬水に下ろさせ」とする、ある家譜の一文に対して、「八重山諸島では、旧暦九月は夏、十月は冬という」との説明が加えられている。

 一読して感じることは、宗教的あるいは呪術的な儀礼に伴う定型化された言語表現に一貫して注目している点である。その一貫性こそ、著者の持ち味であると同時に、本書の最大の長所であり、高く評価されるべき点である。

 われわれが八重山の一村落で豊年祭の儀礼を見せていただくとしよう。儀礼は視覚的に観察可能なので、よそ者にも客観的な記述が可能である。しかし、それはあくまでも視覚的な部分であって、その背後にある観念や意味の部分ではない。

 その部分に関しては、普通は儀礼の直接的な担い手や一般の参加者に場面ごとの意味を尋ね、教えてもらうことによって明らかにすることができる。加えて、歌謡のような、儀礼に伴う定型化された言語表現があれば、それを通してさらに豊かな意味世界を描き出すことも可能となる。本書はまさにそれを実践し、提示しているのである。

 (津波高志・琉球大学名誉教授)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 いしがき・しげる 1937年石垣市白保生まれ、八重山文化研究会会長。高校卒業後、教職に就き、八重山の小中高校に勤務した。日大通信教育部卒業。69年に八重山郷土文化研究会を設立。

 

八重山諸島の稲作儀礼と民俗
石垣繁
南山舎
売り上げランキング: 2,123,014