『蔡温と林政八書の世界』 近世琉球の総合山林規定集


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『蔡温と林政八書の世界』 仲間勇栄著 榕樹書林・5184円

 蔡温(1682~1761年)は琉球近世中期の官僚・改革者である。島国・琉球の財政難と山林破壊に直面する蔡温の基本課題は、“自給”すなわち、資源・エネルギーの根本である“山林の保全と利用”であった。

 蔡温は、1708年に進貢使節団に参加した際、中国・福州に残って風水地理などを学ぶ。28年に三司官に就き、30~40年代は王国の経営を担い力を注いだ。

 彼は山林をよく歩く現場人で技師であった。蔡温の山林観、保全の作法は“抱護”を軸に展開する。中国由来の風水地理は、沖縄の自然条件(冬の季節風と夏の台風)に合わせ実践的に応用された。こうして1737年以降、フクギを屋敷林に利用する網目状(碁盤型)の村落が全琉で形成される(近世琉球の原風景)。

 本書は2部で構成される。第1部は、蔡温の人間像と「林政八書」の思想的根幹をなす風水的自然観の意味を論じる。第2部では「林政八書」の成立や構成などを論じた後、各規定の原文と口語訳文を載せていく。「林政八書」は用語が難しく、これまで研究が浅かった。本書の「林政八書」の扱いは丁寧である。原文・口語訳・註に加え、巻末に「用語集」と「植物誌」が添えられる。琉球の歴史文化に関心のある人は、誰でも学べるように工夫されていて、有り難い。

 「林政八書」は、王府が発布した八つの林政に関わる文書(規定集)をいう。(1)「杣山(そまやま)法式帳」(1737年)(2)「山奉行所規模帳」(同年)(3)「杣山法式仕次」(47年)(4)「樹木播植方法」(同年)(5)「就杣山惣計条々」(48年)(6)「山奉行所規模仕次帳(51年)(7)「山奉行所公事帳」(同年)(8)「御差図扣」(1869年)。

 山林を見分け、保全・植林する方法から山林政策、役人の細かい仕事まで含む、近世琉球の“総合山林規定集”である。島国・琉球が存立・自立のため、清国から風水地理を受け入れ、琉球の風土・制度に適用していった。蔡温はその歴史の主人公であった。

 (中村誠司・名桜大学名誉教授)

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 なかま・ゆうえい 1948年宮古島市生まれ、琉球大学名誉教授。専門は森林政策学・森林史・森林文化論。自著に「島社会の森林と文化」。来間玄次氏との共著で「おきなわ福木物語」がある。