『おもろさうし研究』 歌謡としてのオモロ


社会
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『おもろさうし研究』島村幸一著 KADOKAWA・3780円

 「おもろさうし」の研究は、歌謡・言語・歴史・民俗など多岐にわたるが、原点は謡われたオモロとして読むことにある。本書は、「おもろさうし」の読み方について、巻の性格、ふし名、オモロの歌唱者と場、ウタの表現、研究史の視点から論じている。

 「巻の性格」では、各巻の構成を検討した上で、二十二巻が他巻と重複関係(二首を除く)にあることを指摘し、公事の場で謡われたと述べる。そして、仮名書き碑文と『おもろさうし』を比較検討することで、琉球王府のもう一つの宗教者の姿、すなわち男性官人のオモロ歌唱者を浮かび上がらせる。

 また、「ふし名」には、冒頭句やウタの内容から名付けられた間接命名があるが、場や歌唱者とも関連する「ふし名」もある。例えば、航海儀礼の場の「しゅりゑとのふし」、神女名(歌唱者)を冠した「あおりやへがふし」「きみがなしふし」などである。

 「ウタの表現」では、宮古島狩俣の神歌を検討し、神歌には「神役間の序列」が存在するが、「おもろさうし」には「謡われる場」や「歌唱者」を異にする様々な層のオモロが混在すると説く。また、「おさん為(し)ちへ」の語句は、御嶽から船を見守る神の眼差しの表現であり、ミセゼルやオモロの「めづらしや」は、神もしくは神女が異界から人界、および俗界に繋(つな)がる場所を見た眼差しとその思いを示した語であると述べる。

 「研究史」では、末次智の論を踏まえつつ、新オモロ学派の宮城真治や比嘉盛章の補填(ほてん)法、展読(てんどく)法の読み方を評価している。そして、補填法が世礼国男の「反復法」へと展開し、さらには小野重朗の「分離解読法」へと進んだと述べる。

 本書は、大著『おもろさうしと琉球文学』以降の論集をまとめたものであるが、著者の研究水準の高さを示すと同時に、歌謡としてのオモロ研究をコンパクトにまとめてある。また、「おもろさうし」研究を簡潔に理解するための入門書でもあり、オモロ研究を志す若い学徒をはじめ、一般の皆さまにもお勧めしたい。

 (狩俣恵一・沖縄国際大学特任教授)

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 しまむら・こういち 1954年生まれ、立正大学教授。専門は琉球文学。琉球歌謡、琉球の「歴史」叙述、江戸期の琉球認識を中心に研究。

立正大学文学部学術叢書03 おもろさうし研究
島村 幸一
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