【島人の目】日野原さんの本を読んで


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 聖路加国際病院名誉院長の日野原重明さんが105歳の長寿を全うし、亡くなったのは7月18日のことだった。多くの書物も出版し、そのほとんどがベストセラーになった。最近、読んだ本「続・生きかた上手」に感銘を受けた部分が多いので、特筆してみたい。

 27歳の時、アメリカ留学をした関係だろうか。日野原さんの本には多くのカタカナ英語が使用されている。その中に「セレンディピティ」という言葉がある。「求めずして思いがけない発見をする能力」「予期せぬ幸運」などと日本語に訳されている。

 18世紀の英国の政治家で作家のホレス・ウォルポールが使い始めた言葉とされる。科学の大発見の裏には、いつも「セレンディピティ」が隠されているというのだ。「ペニシリン」という抗生物質を青カビから発見した英国のフレミングやリンゴが木から落ちる様子を見て「万有引力の法則」を導き出した同じく英国のニュートンのこと、日本で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士が「一流の科学者になりたかったら、小説をたくさん読みなさい」といったこと、最近の日本人科学者のノーベル賞受賞の裏には幾度の失敗の末あるいは畑違いの学部であったことから大胆不敵といわれる研究にも没頭できた例などを挙げ、「セレンディピティ」の大切さを強調している。

 脳科学者の茂木健一郎さんも「感動する脳」の中で、一人で悩んでいて解決しなかった問題が、外に解決法を求めることで簡単に片がついてしまうことがある、それこそが「セレンディピティ」だと言う。ネガティブな気持ちでも、不安を抱えていても、取りあえずは外に飛び出してみることが大事だと言っている。

 日野原さんは「人のために自分を捧げる喜びを知っている人をプロという」「人を思いやる習慣」「心に希望を持つこと」「悲しみを乗り越えるということ」などを自分の生きがいにして長い生涯を貫き通した。真の「人類愛に生きた」方であった。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)