『歌集「琉球すみれ」』 麻痺の身に敬虔な祈りの歌


社会
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『歌集「琉球すみれ」』木村浩子著 青梅社・2000円

 木村浩子の短歌との出合いは18歳のころ。初めて祖母と訪れた県立広島病院で「脳性麻痺で歩けません」と伝えた祖母の一言が、木村浩子の人生を大きく転換させるきっかけとなった。白衣の天使原田節子氏との出会いであった。原田氏から手渡されたのは山本康夫著『短歌の真実』。一度も学校へ行ったことのない、学習の場とは全く無縁の生活を、自ら一変させ辞書にかじり付いての猛勉強が始まった。

 その当時の短歌を読むと、あのヘレンケラーとサリバン女史との「奇跡」の場面と重なってくる。後に著書山本康夫の結社「真樹社」の門をたたき、本格的に短歌を学ぶこととなる。一章となる「足指に生きる」は当時の生活を詠んだ、1966年の発行で、再録。

 ・麻痺の手に本を持たんとあせれどもいよいよこわばるこの手よ悲し

 ・小児麻痺のわれにただひとつ許されし歌学ばんと訪(と)う真樹社の門

 二章「水底に透きて」は著者の人生で最も充実した生活が描かれる。不自由な身にも多くの理解者を得て、身障者のための施設「土の宿」を設立、社会の貢献者として、社会的地位を得てゆく。結婚と子育ての日々は、自ら驚きの歌さえ作られる幸せの日々であった。しかし人並みに動けぬ主婦としての日常に、恐れていた離婚という悲しみが突然やって来た。女として波乱の人生が詠われる。

 ・愛されてなおも死を思う夜のありガスストーブは音立てて燃ゆ

 ・感動に目も開き得ぬ麻痺のわれ吾子が産声あぐる一瞬

 三章「琉球すみれ」は歌集名として命名されている。八十路を過ぎた現在の心境の作品が力強く詠(うた)われ、半生を振り返り、終の棲家に選んだ「沖縄」が語られ、時事詠の章ともとれる作品が並び、社会の矛盾を抉(えぐ)り出す。

 ・民意など無視し国策を押し付けぬわれは手足の痺(しび)れ日々増す

 ・わが手足のしびれ増す日々刻々と世は変わりゆく憲法もまた

 紙幅が尽きる。歌集を紐説く序奏のエッセーとして「わが半生記」が興味深い。ぜひ一読を。

 (玉城洋子・現代歌人協会会員 紅短歌会代表)

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 きむら・ひろこ 1937年、旧満州(中国東北部)生まれ。全ての学歴を有せず55年、広島短歌会結社「真樹」会員。87年、沖縄短歌会会員、2014年からNPO法人共に生きるネットワーク「まなびやー」理事。

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