『キジムナーKids』 逞しい少年らのエール


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『キジムナーKids』上原正三著 現代書館・1836円

 本書は戦中戦後を生きた世代には郷愁を覚える作品であろう。戦後生まれの読者にとっても、聞き知っていた具体的な日常が目に浮かぶはずだ。

 沖縄はいつの時代にも困難な局面を強いられてきた。とりわけ沖縄戦や米軍政府統治下の時代、そして今日の高江、辺野古における新基地建設の課題など、いずれも厳しい状況に対峙(たいじ)して生きている。

 本書は、戦時中や終戦直後の困難な時代を生き抜いた沖縄の少年たちの物語である。作者は彼らのことを「キジムナーKids」と名付ける。何ともはや逞(たくま)しい。特に5人の少年にスポットを当てて展開される物語は痛快でさえある。

 彼らは悲惨な戦争を体験しトラウマ(心的外傷)となった過去を背負っている。戦争で家族を失い、言葉を失った少年ベーグワー。その他ハブジロー、ポーポー、ハナー、サンデーは、さまざまなつらい体験を心身に刻んでいる。しかし負けることはない。基地に忍び込んで「戦果」を上げ、時には幽霊を見てマブイ(魂)を落としながらも前を向いて生きていくのだ。

 本書で紡がれる物語は彼らが見たたくさんの大人たちの悲劇である。同時に彼ら自身が背負っている悲劇だ。彼らが見たものは、例えばひめゆり学徒隊や集団自決や戦後の身体を張って生きる女たちの姿である。そんな中、彼らは互いの苦痛を思いやりながらも希望を捨てることはない。その生き方はまるで今日の時代を生きる私たちへのエールのようにも思われる。

 彼らの感慨の一つは次のように語られる。「悲しいから笑顔を作るのか、嬉(うれ)しいから笑顔になるのかわからない。きっと息が吸える、息が吐ける。生きて呼吸ができるから笑顔になれるのだろう」と。

 本書の魅力は、少年たちの逞しい生きざまだけでなく縦横に飛び交うシマクトゥバの豊かさにもある。著者の上原正三はウルトラマンのシナリオライターで、本書は自らの体験が作品の根底にあるという。思わず快哉(かいさい)を叫びたくなる読後感だ。

 (大城貞俊・作家、大学非常勤講師)

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 うえはら・しょうぞう 1937年、那覇市生まれ。シナリオライター。中央大を卒業し、円谷プロ文芸企画室に属し、66年の特撮テレビ映画「ウルトラQ」第21話で本格デビュー。69年にフリーとなり以後、テレビ映画を中心に活躍。

キジムナーkids
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上原正三
現代書館
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