『世界史からみた「琉球処分」』 西洋列強の影響、色濃く


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『世界史からみた「琉球処分」』ティネッロ・マルコ著 榕樹書林・6264円

 本書は、琉球国が明治日本に編入された一連の過程、すなわち「琉球処分」(併合)について論じる新進気鋭の研究者ティネッロ・マルコ氏の待望の著書である。ちなみにマルコ氏は2016年に沖縄学の若手研究者に贈られる沖縄文化協会賞を受賞している。氏は琉球や日本側の史料を丹念に読み解くのみならず西洋列強側の史料を用い、従来十分に論じられてこなかった琉球処分と西洋列強の関係を体系的に描き出している。

 すでに、琉球処分に係る問題については多くの蓄積があり、これまでにも西洋列強側の関与は取り上げられてきた。しかし、本書が提示する最大の新味は琉球処分の問題が、単なる琉日関係または中琉日間の問題に収まらない広くグローバルな性格を持っていたこと、特に中琉日間の各交渉に西洋列強の態度が強く影響しており、その点を理解することでより立体的に問題の本質を解明することが可能であることを示した点にある。

 著者は琉球国がアメリカ・オランダ・フランスと条約を結んでいた事実を重視し(批准はアメリカのみ)、同時点で西洋諸国が琉球を主権国と認識しており、その後の展開によっては日本による琉球処分が難しくなった可能性を指摘する。また、明治政府が三条約の存在によって西洋列強の介入を招く可能性を警戒し、交渉を通じて琉球側を支援しないよう手段を講じたこと、西洋列強も近代化を進める日本側に与することの利を優先して琉球処分を黙認する立場を取ったことが、その後の展開に影響したことを論じる。

 さらに本書では1850年代以降の江戸へ送られた琉球使節の位置付けをめぐる変化など多岐にわたる議論を展開している。残念ながらその詳細を紹介することはできないが、本書が論じる日本による琉球支配が決して一様ではなく都合に応じて変化していたこと、さらに東アジアの近代化の所産として琉球国の問題が現在へとつながっているとの指摘と重みを共有したい。

 (山田浩世・沖縄国際大学非常勤講師)

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 ティネッロ・マルコ 1977年、イタリア生まれ。2004年に国費留学生として来日し、法政大大学院・早稲田大大学院で学ぶ。現在、法政大沖縄文化研究所に所属。16年に沖縄文化協会賞比嘉春潮賞受賞。

世界史から見た「琉球処分」 (琉球弧叢書)
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