『琉球史料学の船出』 歴史研究の新たな地平へ


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『琉球史料学の船出』黒嶋敏、屋良健一郎編 勉誠出版・4536円

 日本の歴史学会では中世史研究を中心に、古文書の機能・様式・料紙・墨色・花押・印章などを科学的に分析する古文書学を発展させきた。そして、いまや同時代に作成された一次史料のみならず、系図、後の編さん物・記録、偽文書のような二次史料・周辺史料までも対象とし、大きな成果をおさめつつある。

 本書は、近年の古文書学の方法論を、琉球史料研究に適用して得られた成果を、第一部「古琉球の史料学」、第二部「近世琉球の史料学」、第三部「周辺からの逆照射」の三部構成でまとめ上げたものである。

 各部の執筆者と論考を示しておくと、第一部が上里隆史「古琉球期の印章」、村井章介「かな碑文に古琉球を読む」、屋良健一郎「琉球辞令書の様式変化に関する考察」。第二部が山田浩世「琉球国中山王の花押と近世琉球」、麻生伸一「近世琉球の国王起請文」、豊見山和行「『言上写』再論-近世琉球における上申・下達文書の形式と機能-」。そして最後の第三部が畑山周平「島津氏関係史料研究の課題-近世初期成立の覚書について-」、須田牧子「原本調査から見る豊臣秀吉の冊封と陪臣への授職」、黒嶋敏「琉球渡海朱印状を読む-原本調査の所見から-」などである。

 本書が指摘するように、琉球関係史料はオリジナルが少ない上に、王府に関わる編さん物・記録類、家譜・辞令書・地方史料のほかに特有の金石文、さらに日本を含めて東アジア諸国との外交関係史料など複雑多岐にわたる。それぞれの論考のテーマはそうした琉球史料に真正面から向き合おうとしたもので、これまで精力的に琉球史料研究に取り組んできた9人の俊秀たちは、「史料学」がたとえ断片的な史料からでも多くの有益な歴史情報を引き出し得ることを教えてくれている。いまここに船出した「琉球史料学」が、琉球史研究の新たな地平を切り開くことになるのは間違いない。(上原兼善・岡山大名誉教授)

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くろしま・さとる 1972年生まれ。東京大学史料編纂所准教授。日本中世史専攻。

やら・けんいちろう 1983年生まれ。名桜大学国際学群准教授。日本中世史、琉球史専攻。

 

琉球史料学の船出―いま、歴史情報の海へ
勉誠出版
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