『ウィルソン 沖縄の旅 1917』 新しく 懐かしい風景


社会
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『ウィルソン 沖縄の旅 1917』古居智子著 琉球新報社・2324円(税別)

 歳月とは、かくも多くのものを変化させてしまうものなのか。

 セピア調の表紙をワクワクしながら開くと、私の目の前に広がってきたのは、幼い頃遊んでいた奥武山の風景であった。そこには、私の記憶とは異なる別物の風景が広がっていた。

 大木と呼ぶにふさわしいリュウキュウマツ。何かを求めるように空に向かって枝を伸ばす巨木・梯梧(でいご)。キジムナーがひょっこりと顔を出しそうなガジュマル。絶景としかいいようのない宜野湾街道の松並木。王都の誇りを表すかのように並び立つアカギの大木たち。群生するソテツやクバ。印象に残る木々を一つひとつ挙げていけばキリがない。

 さらには、写真機を手に、沖縄特有の植物たちに圧倒されながら驚きの表情を見せるウィルソンの姿さえ、目に浮かんでくるような気がしてしまうから不思議。また、プラント・ハンターらしく、樹高や幹周を冷静に記す姿勢にも親しみを感じてしまうようになるから面白い。

 しかし、本書に掲載された写真は植物だけではない。赤瓦の家や茅葺(かやぶ)きの家が立ち並ぶさまざまな地域。山原船が浮かぶ港。製糖を行う家族など、当時の人々の暮らしぶりが写し撮られている。ページをめくるたびに出合う、新しくも懐かしく感じる沖縄の風景。まさしく借り物ではない、本物の沖縄がページのあちこちからにおいたってくる。

 本書の各章タイトルにもなっているウィルソンのメモ書きも素晴らしい。例えば那覇は「島のすべての植生は基本的には常緑樹で、景色はとてもいい」、名護は「軒の長い茅葺屋根の小さな平屋の家々は、フクギの木に抱かれていた」と表現されている。当時の沖縄を詠んだ一篇の詩のようだ。

 より多くの情報が、本書の59枚の写真やタイトルには秘められているのだ。

 失われた風景は美しい。しかし郷愁だけでは何も始まらない。私たちが、今何をなすべきか、ウィルソンの写真たちは、示唆してくれている。

(宮城一春・編集者)

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 ふるい・ともこ 大阪府生まれ。北海道大卒業。米国ボストンでジャーナリストとして活躍後、1994年に屋久島に移住した。著書に「密行 最後の伴天連シドッティ」など。

 

Wilson in Okinawaウィルソン 沖縄の旅 1917

2017年9月発行 琉球新報社

古居智子著
B4変型判 112頁
※英文併記

¥2,324(税抜き)