『風かたか』 体温がこもった警告


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『風かたか』 三上智恵著 大月書店・1620円

 辺野古への新基地建設、高江の大弾圧、南西諸島への自衛隊配備、安部オスプレイ墜落、元米兵による暴行死体遺棄事件…。出来事の羅列だけでは分からない、センセーショナルな文字の奥に息づく人々。つい先日も、「米軍大型ヘリ、高江に不時着、炎上」というニュースが世間を震撼(しんかん)させたばかり。当然のことながら、このタイトルの背景にも「人」がいる。この一件によって、将来が不安になったり苦境に立たされたりした「人」がいる。

 2011年から5年の間、高江に暮らしたことがある。表向きは自然の素晴らしいシェルター。しかし、その一方、昼夜問わず軍用機が地鳴りを響かせながら頭上を飛ぶ。「これらのいかめかしい軍用機は、いったい何のために、そして誰のために旋回してるんだろうか」という疑問は、移住者であるわたしたちには実に素朴であり、問いの先には、「地位協定」なる“トンデモルール”存在があった。

 そんなことを、高江の座り込みテントで知り、北部訓練場の米軍ゲート前で、威勢よくシュプレヒコールをあげている人がいるなぁと思ったら、この本の中に頻繁に登場する山城博治さんだった。わたしはその時、初めて「正当なる怒り」というものを目の当たりにし、つくづく怒りはエネルギーだと思った。山城さんはじめ、この本には、島袋文子おばあ、稲嶺進市長、そして宮古の石嶺香織前市議と、著者の心をつかんでやまない、ウチナーンチュの気骨が生き生きと描かれている。「守る」という「闘い」をいつまで沖縄は続けなければならないのだろう。

 そして、いくら想像力を膨らませても、実際にその「現場」(という名の戦場)に行かなければ、沖縄の闘いをリアルに体感しきれないこともある。この本は、「現場」で日々繰り広げられる、ドラマのような出来事を的確にリポートし、読み手の感情にダイレクトに訴えかけてくる。政治家でも歴史家でも軍事評論家でもない、沖縄民俗学の視点、すなわち三上智恵さんのフィルターを通し、この島に横たわる問題を写すと、こんなにも体温が感じられる警告になるのか。「風かたか(風よけ)」は、何のために、そして誰のための風よけなのか、この本を読んでじっくり読んで考察したい。
 (根本きこ・フードコーディネーター)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 みかみ・ちえ ジャーナリスト、映画監督。琉球朝日放送でキャスターを務め、数多くのドキュメンタリー番組を制作。2012年制作の「標的の村」が反響を呼び、劇場映画として公開された。「戦場ぬ止み」は山形国際ドキュメンタリー映画祭に正式招待された。

風かたか 「標的の島」撮影記
三上智恵
大月書店
売り上げランキング: 362,093