『「沖縄学の父」伊波普猷 新訂版』 思想に迫り、限界見極め


社会
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『「沖縄学の父」伊波普猷 新訂版』金城正篤、高良倉吉著 清水書院・1944円

 本書は、沖縄学の父と称される伊波普猷の人間像や歴史像を社会的背景も交えながら描いたものである。

 そもそも本書は、日本復帰を前に『伊波普猷 沖縄史像とその思想』として1972年に刊行され、84年に『「沖縄学の父」伊波普猷』と改題刊行されたものの新訂版にあたる。著者があとがきで述べるように、内容は旧版をほぼそのまま引き継いだもので論旨に変更はない。

 全体は3章と二つの付論によって構成され、第一章「伊波普猷の人間像」では、伊波の生涯を辿(たど)りながら近代沖縄のただ中を生き、そしてけん引した伊波の人物像が描かれる。第二章「伊波普猷の沖縄史像」では、伊波の発表した研究(例えば日琉同祖論・阿麻和利・オモロ・島津の琉球入り・向象賢と蔡温・琉球処分・宜湾朝保)を取り上げながら、伊波がいかなる視点で沖縄の歴史を描き出そうとしたのかが通史の体裁をとって示される。第三章「伊波普猷の歴史思想」では、前章までを下敷きに伊波が描く歴史像の思想的背景や交流を紹介し、現実との狭間(はざま)で格闘した伊波の姿と戦後の動向が描かれる。そして最後に伊波の「沖縄学」とはどのようなものであったかが示される。

 なお本書についてこのように評すると、あたかも伊波賛美、伊波の歴史観の紹介本のように聞こえるかもしれないが決してそうではない。全章を通じて1972年の沖縄と向き合っていた著者ら(当時金城37歳、高良25歳)が、研究者の先達(せんだつ)として、また「父」としての伊波を検証し、時代と向き合うあり方や伊波の思想的限界を見極めようとした作品でもある。

 1972年に刊行された本書は、当然ながら今日までの伊波をめぐるさまざまな研究成果をカバーしたものではないが、本書ほど伊波の歴史像と思想的枠組みをコンパクトに示したものはない。また、日本復帰という世替わりを前に研究者が、伊波から何を学び取ろうとしたのかを垣間見せる本もない。読み継がれる良書であり、二つの意味で本書の価値は色あせていない。(山田浩世・沖縄国際大学非常勤講師)

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 たから・くらよし 1947年、伊是名村出身。現在、琉球大学名誉教授。主な著書に「琉球の時代」など。

 きんじょう・せいとく 1935年、糸満市出身。現在、琉球大学名誉教授。主な著書に「琉球処分論」など。

 

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