『御冠船料理の探求』 超豪華なご馳走、より身近に


社会
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『御冠船料理の探求』ウ・ヤンファ著 出版舎Mugen+ 4536円

 著者は日本語に熟達した中国人として、在沖歴も長く、冊封使徐葆光(じょほこう)の詩を訳・解説、紹介するなどの業績もあるが今度は、御冠船(うかんしん)料理の解剖に、10年をかけて真正面から取り組んだ。

 従来も御冠船料理についての研究論考があったけれども、著者は謙虚にこれらを紹介しながら、なお中国人としての独自な精査博捜を加えて、御冠船料理の事典ともいうべき一冊を造りあげた。

 冊封(御冠船)、そしてそれに供応する御冠船料理というものが、琉球人にとっては単語として親しいだけであったが、この一冊で具体的に、やさしく、より親しいものになりそうである。

 巻頭にまず39点もの御冠船料理の絢爛(けんらん)たるカラー写真を並べた(そのレシピも添えられている)のを見ると、超豪華なご馳走であったことが察しられる。ただ、これで全部ではないが、これだけでも復元に大変な手数がかかっている、と本文にある。復元には複数の研究者がかかわった。

 冊封使そのものの解説が巨細にわたっていて、御冠船料理の背景がよく見える。ついでの記述で、冠船貿易の資料も、体系的によく整理されていて詳しい。

 その大規模な供応の実態を説くのに、食料調達、料理場、料理人、食器についても、内外の文献を駆使して説いた。

 その上で、先行文献の助けを借りて、食材と料理をつぶさに説いたのを読むと、今日のいわゆる琉球料理に重ねながら読むこともできて、楽しい。

 「御冠船料理の再現」の章は、歴史と現代の技術を掛け合わせての著者と先人、同輩たちの営みの紹介で、頭のさがる記述である。歴史と今日とが地続きになっている感がある。

 本文のほかにちりばめられたコラムが、くだけて面白い。著者が中国人であることと琉球史文献とを、凝らずに結び合わせての料理風俗の紹介である。本文にあるべき資料が、いくつかコラムにあって、少し疑問に見えるが。

 巻末に古文献の影印が添えられているのは、この著者がこれまでの著書にもたびたび提供しているサービスで、専門家には魅力あるものだろう。(大城立裕・作家)

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 う・やんふぁ 中国・上海生まれ 一般社団法人・徐葆光の道を歩もう会副理事長。同済大学文学部日本語学科卒業。京都大学大学院工学研究科博士後期課程単位取得。