◇11月は「児童虐待防止推進月間」
福井大学子どものこころの発達研究センター教授で小児精神科医の友田明美さんによる講演会(県立看護大学主催)が11月17日、県立博物館・美術館講堂で開かれた。
友田明美さんは「マルトリートメントやDVにより傷つく脳と回復へのアプローチ」と題して講演し、虐待や暴言などの暴力が子どもの脳にダメージを与え、健全な心の発達を阻害すると報告した。背景に親の子育て困難があるとし、子育て世帯を多くの手で支えることが重要だと説いた。
無視や夫婦げんかも
マルトリートメントとは、虐待よりも広義で「不適切な養育」を指す。言葉による脅しや威嚇、無視、子どもの前での激しい夫婦げんかも含まれる。
友田さんは、国内外で行ってきた被虐待児の脳の画像診断や臨床研究の結果を基に報告。子ども自身が言葉による暴力を受けた場合は、コミュニケーションで重要な役割を果たす聴覚野で変形がみられたという。
しつけと混同されがちな体罰では、感情や思考をコントロールし行動抑制力にかかわる前頭前野の容積が小さくなっていた。さらに、両親のDVを目撃して育った児童の場合は、視覚野の容積が正常な脳と比べて平均6%小さくなっており、視覚による記憶力が低下していることが分かった。
友田さんは「身体的なDVを目撃した場合より、罵倒や脅しなどの言葉による暴力を見聞きした場合6~7倍も脳が萎縮しており、ダメージが大きいことが分かった」と指摘。「子どもの心や脳を傷つけないためにも、夫婦げんかをする時は、メールやLINE(無料通信アプリ)でしてほしい」と求めた。
愛着、再形成できる
子どもの健全な心の発達には、信頼できる大人との愛着形成が不可欠だと説いた。目と目で見つめ合う、手と手で触れ合う、語り掛ける、笑い掛けるという愛着の三要素を紹介し「愛着が形成されると、子どもが落ち着いた行動が取れる」と指摘した。
不適切な養育によって愛着形成がうまくいかなかった場合も、再形成は可能だとし、子どもが暴れたり、手を出したりするなどのトラブル時には、静かな部屋に移し、頭ごなしに怒らないよう助言。安定した環境の中で根気強く接し、褒め育て、時間をかけて子どもの負った傷を癒やしていくよう説いた。同時に、子育てする親のサポートは重要だとし「子育て家庭に声を掛けて不安を聞き取り、その情報を専門と連携してつなぐ『おせっかい』を焼こう」と求めた。
同日は医療関係者や児童福祉の専門職員、一般ら215人が来場。講演後は、愛着障がいの子どもとの具体的な関わり方や、性的虐待を受けた子どもへの脳の影響などの質問が相次いだ。