国立劇場おきなわの企画公演「アジア・太平洋地域の芸能 吹く」が11月25日、浦添市の同劇場で開催された。息を吹いて演奏する楽器は、横笛や尺八のように穴に息を吹きつける形式のほか、唇の振動を音源とするもの、リード(振動して音を発する薄片)を音源とするものなど、地域や演奏目的によって形態や奏法などが異なる。公演では沖縄、大和、中国、韓国の「吹く」楽器を一堂に集め、それぞれの魅力を紹介した。
沖縄からは最初に首里王府阿波連路次楽御座楽保存会が路次楽の「一段」を演奏した。同劇場の情報誌「華風」によると、路次楽は国王の行列の際に演奏される音楽で16世紀ごろに明国から伝わったとされる。主旋律を奏でる楽器として、まずダブルリード楽器「哨吶(ツオナ)」があり、日本本土のチャルメラに類する。唇の振動で演奏する楽器は低音の「銅角(ドーカク)」、高音の「喇叭(リーパー)」がある。「一段」は式典の最初に演奏される曲だ。
大湾清之らは組踊「執心鐘入」の鬼女の場面などを演奏した。組踊、琉球舞踊、琉球古典音楽で用いる笛は明国から伝わった「明笛(みんてき)」の系統とされる。明笛には竹の紙が張られた「膜孔」があるが、沖縄の笛にはないという。
大和からは、まず雅楽の宮田まゆみ(笙(しょう))、中村仁美(篳篥(ひちりき))、八木千暁(ちあき)(龍笛(りゅうてき))が演奏した。聞き覚えのある「越天楽」など優雅な音曲を聴かせた。和音が美しい笙、主旋律を奏でる篳篥、横笛の龍笛といった各楽器の音色の違いも楽しめた。笙の独奏曲「線香花火」はドイツの現代音楽の作曲家ロベルト・HP・プラッツの作品。幻想的で郷愁を誘う旋律の前半からトリッキーな後半へと展開する個性的な曲だった。
尺八奏者の善養寺惠介、芦垣皋盟(こうめい)は古典の「鹿(しか)の遠音(とおね)」を演奏した。雌を慕う牡鹿(おじか)の鳴き声がこだまする様子を2人の掛け合いで表現した。
中国の池英旭(チインシゥ)は横笛の「ディーズ(笛子(てきし))」を演奏した。膜孔に竹やアシの内側の薄皮が張られ、ビリビリとした音を特徴とする。中国の楽器はもともと歌や劇の伴奏が主で、20世紀に差し掛かったころから独奏楽器としての発展が模索されたという。本公演では1960年代に作られた独奏曲を演奏した。技巧的かつアップテンポ、明るい曲調の演奏で魅了した。琉球古典音楽でも古典を重視するとともに、より積極的に創作にも挑戦してほしいと感じた。
韓国の元長賢(ウォンチャンヒョン)は竹を素材とする横笛「大笒(テグム)」、木などで作られた胴体に金属製の開口部、吹き口が付いたダブルリード楽器「太平簫(テピョンソ)」を演奏した。泣いているような独特の音色を聴かせた。
各国の音楽に触れられる貴重な機会だっただけに観客数が伸び悩んだことは惜しまれた。なじみが薄かったのだろうが、沖縄の文化が発展するためにも他国を知ることは重要ではないだろうか。
(伊佐尚記)