『琉球古典音楽 安冨祖流の研究』 演奏様式の特性明らかに


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『琉球古典音楽安冨祖流の研究』新城亘著 新宿書房・6480円

 本書は、著者が沖縄県立芸術大学に提出した2006年度の博士論文を加筆、修正して出版したものである。著者自らが琉球古典音楽安冨祖流の実演家であるため、野村流とは何がどう違うのかという一点に論考を絞り、図表や音源映像を駆使して安冨祖流の演奏様式と音楽的特性を明らかにした画期的な論文となっている。  

 著者はまず琉球古典音楽の系譜をまとめるとともに、「野村風」「安冨祖風」と呼ばれていた会派がいつ頃から、どのようにして流派を成立させていったのかという歴史的分岐点を当時の新聞資料等を駆使して明らかにしている。琉球古典音楽に関する先行研究と文献を精査した上で自らの疑問を解くべく研究に取りかかっている。

 屋嘉比朝寄(1716~75年)によって残された古典音楽の楽譜(三線譜)、“書き流し”工工四は尚泰王の時代(1848~72)に拍が整理されて現在の野村流、安冨祖流に受け継がれてきた。野村流は世礼国男(1897~1950)によって声楽譜が付けられたのに対し、安冨祖流は元来の口伝に頼る教授法を貫いて来たため、一般には難解だという印象を与える。しかし、安冨祖流の指導者たちは“手様(ティーヨー)”と呼ばれる間の取り方、そして“抑え起(おこ)し”という歌唱法の原則にそって伝統の唱法を継承してきた。

 著者は両手と体の上体の動きによって生み出される安冨祖流の吟法を整理し、新しい手様譜を考案して説明している。また、「抑え吟」と「起し吟」を野村流の「居し持ち吟」と比較しながら解析しているが、評者にとって興味深かったのは「切先(きっさき)」の比較分析である。これは歌い出しによる野村流と安冨祖流の違いを決定づける吟法であるが、著者は野村流、安冨祖流の主なる演奏者が歌う数曲を音圧グラフに取り、視覚的な分析に成功している。またその音源のCDやDVDを付録に付けている。

 一過性の“音”を解析し、それを文字によって説明していくことは至難な技だが、その解析に果敢に取り組んだ本書を古典音楽に携わる全ての人に一読してほしいと願う。

 (比嘉悦子・民族音楽研究家)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しんじょう・わたる 1948年、石垣市生まれ。県指定無形文化財「沖縄伝統音楽安冨祖流」伝承者。NTTに23年間勤務した後、90年に県立芸大音楽学部邦楽専攻に入学。2006年に同大学芸術文化研究科後期博士課程修了。

 

琉球古典音楽 安冨祖流の研究
新城 亘
新宿書房 (2017-10-23)
売り上げランキング: 739,008