『「学校芸能」の民族誌』 地域と学校の相互作用


社会
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『「学校芸能」の民族誌』呉屋淳子著 森話社・7344円

 本書は、沖縄における学校芸能と民俗芸能の相互的な関連を多面的に描出するものである。著者は「学校芸能」という語を、学校制度の中で新たに創造される民俗芸能とする。民俗芸能は近代以降、地域社会と切り離されたのではなく、むしろ地域と密接に関わりつつ学校という場で実践され、さらに「学校芸能」として学校と地域の相互作用で創造されてきたのだという。

 序章では、近現代の民俗芸能の研究方法の検討と著者による調査の概要が紹介される。第一章では調査地八重山地域の概観と学校教育の歴史が確認される。第二章では八重山芸能の歴史的過程が描かれ、戦後八重山独自の芸能の模索段階で「八重山ひるぎの会」による八重山芸能の創造過程が考察される。

 第三章から本書の主要テーマである学校教育への民俗芸能の導入が検討される。60年代に郷土芸能クラブを生む八重山高校の事例紹介、竹富島の種取祭と学校の関わり、沖縄県高等学校教職員組合の芸能への取組み、琉球大学八重山芸能研究会の活動事例が紹介される。続く第四章では全国高等学校総合文化祭と沖縄の関わりが考察される。

 これに連動して沖縄県高等学校文化連盟が設立され、沖縄県高等学校文化郷土芸能大会が開催される過程が描かれる。第五章では沖縄の「学校芸能」が全国的システムである学校教育課程とどう関わるかが検討され、八重山での「郷土の音楽」の実践事例も紹介される。第六章では、八重山の三高校での郷土芸能部における「学校芸能」の展開過程が演じ手、観客双方の育成という観点から詳しく考察される。終章では全体のまとめとして、学校芸能と地域社会の相互的作用が多角的に検討される。

 本書には地域の民俗芸能、学校芸能、そして全国的舞台というトライアングルのダイナミックな関係がよく描かれている。こんにち多くの教育関係者が自問する、全国画一的学校教育システムの中で地域文化教育をいかに実践するべきかの問いについて、豊かな可能性と方法的示唆を与えてくれる良書である。(久万田晋・沖縄県立芸大教授)

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 ごや・じゅんこ 1978年生まれ、中城村出身。県立芸術大学音楽学部琉球芸能専攻准教授。博士(教育学)。専門は教育人類学と民俗芸能研究。朝鮮半島や南西諸島、東北を中心にフィールドワークを行っている。

「学校芸能」の民族誌: 創造される八重山芸能
呉屋 淳子
森話社
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