『沖縄の米軍基地過重負担と土地所有権』 間違い重ねた辺野古裁判


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄の米軍基地過重負担と土地所有権』阿波連正一著 日本評論社・3780円

 「県が、知事が裁判に勝てるポイントは何か」とのコメンテーター・高嶺朝一氏の質問に、本書の著者阿波連正一氏は「県の弁護団を全部クビにすることです」と即座に答えた。前知事の辺野古沿岸の埋立承認を取り消した翁長雄志知事の取消処分を巡る代執行訴訟など3件の国・県間の裁判が進行中の2015年12月に沖国大で開かれたシンポジウムの前半終了直前だった。静岡大学紀要論文の全8章と書き下ろしの序章で構成されている本書で、その発言の理論的背景が明らかになる。

 自治権を奪われた米軍基地を建設する目的の埋立承認を米軍基地に関与する自治権と法律構成し、米軍基地を新たに建設することは自治権の侵害だとする米軍基地過重負担の自治権構成を県がとった。その結果、既存の陸地の米軍基地過重負担は公有水面埋立法4条1項1号「国土利用上適正かつ合理的なること」の要件の判断要素から排除され、米軍基地過重負担の「経済的不利益」を法律構成できないばかりか、「盗人猛々しく」土地所有権構成の国がその「利益」の証拠とした。

 県全面敗訴は自治権構成の論理的帰結とする。他方、埋立承認の法的性質は「埋立地の用途」の「制限された土地所有権」を取得させ国民経済の向上、地域経済の発展への寄与にあるが、過重負担の米軍基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因であるとする基地過重負担の土地所有権構成が第三者委員会報告と国と最高裁のとる見解だと分析する。

 著者独自の土地所有権論に基づく紀要論文特有の晦渋(かいじゅう)な表現と繰り返しの論述が多い本書は、決して「楽しめる本」ではない。2016年12月26日の翁長知事の埋立承認取消の取消処分が結果的に辺野古の戦いに終止符を打つと知事に進言した評者と「(取消処分は)知事権限による埋立阻止の放棄を宣言したこと」で「『想像を絶する』判断」と論難する著者とは完全に符合する。県は辺野古裁判における法律構成および、承認取り消しの取り消しを行うという間違いを重ねた。取り消し処分の取り消しに反対した少数派の眼(め)には、本書は遅れてきた援軍のようにも映った。(仲宗根勇・元裁判官)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あはれん・まさかず 1952年、国頭村生まれ。専門は民法、不法行為法と土地所有権法。沖国大教授を経て、2005年から静岡大学法科大学院教授。

沖縄の米軍基地過重負担と土地所有権 辺野古の海の光を観る
阿波連 正一
日本評論社
売り上げランキング: 948,613