『沖縄子どもの貧困白書』 立ち止まり、向き合いたい


社会
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『沖縄子どもの貧困白書』編集委員 加藤彰彦、上間陽子、鎌田佐多子、金城隆一、小田切忠人 かもがわ出版・2916円

 『沖縄 子どもの貧困白書』は、貧困にまつわる偏見を一つ一つはぎとり、なぜ貧困から抜け出すことが難しいのかという根本的な問題に、当事者の立場、支援者の立場から丁寧に光を当てている。

 沖縄県では、政府が示した指標に独自の調査を加え、これまで算出が難しいとされてきた県単位での子どもの貧困率算出に取り組んだ。29・9%という結果は大きな衝撃を与えたが、データをデータのままで終わらせていたら本末転倒だ。これを受けて沖縄県では、翁長雄志知事のリーダーシップと、子どもと接する人々による地道な実践の双方から、さまざまな取り組みが行われてきた。

 本書全体を通じて、貧困が多種多様な「排除」によって再生産されていくことが浮かび上がる。例えば行政が子ども支援制度を用意していても、そこへアプローチすることすらできない人々がいる。援助申請書類の準備ができるかどうかも、家庭環境に左右され排除につながるという貧困のリアリティー。貧困というものがどこかに抽象的に存在しているのではない。具体的な関係性からの排除の積み重ねが、貧困の大きな要因となっているのだ。

 両親から十分な養育を受けることができないまま、高校生の時に妊娠出産した17歳の女性。将来は「自分と同じような境遇にある人たちの支えになりたい」「子どもたちには助けを求めることを教えたい」と語る一方で、その思いが揺らぎ始めているとも言う。「おとなのなかには、ちょっと話を聞くとまとめたがる人がいるの(中略)もっと相談したいことがあるのに、話が先まで進んじゃったり、違う方向に行ったりすると、言いたいことがもう途中から言えなくて、『わかった。がんばってみる』って話が終わっちゃう」―。

 この彼女のつぶやきは、私自身一人の「おとな」として胸に刻んでおきたい。支援において「寄り添う」ということはどういうことなのか、立ち止まって考えさせてくれる一冊だ。(西郷南海子・安保関連法に反対するママの会発起人)

沖縄子どもの貧困白書
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