『在日米軍―変貌する日米安保体制』 膨大な財政支援で続く駐留


社会
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『在日米軍―変貌する日米安保体制』梅林宏道著 岩波新書・950円

 安倍晋三首相が「日米同盟の揺るぎのない絆」という言葉を繰り返すように、今日、日本国内では「日米同盟」という言葉はメディアなどで何の違和感もなく使用されている。しかし、「日米同盟」の実体とは、在日米軍や日米軍事協力に他ならない。米軍基地に隣接して生活している沖縄の人々は、米軍の活動を通して「日米同盟」とは何かを日々実感させられる。しかし、多くの日本国民の「日米同盟」の実体への認識は希薄なのではないだろうか。

 本書は、日本国民の「日米同盟」についての具体的な感覚を取り戻すべく、在日米軍の組織、制度、活動を明らかにする。著者は、長年にわたって情報公開法を駆使して米軍の実体に肉薄してきた研究者である。本書は、15年前に出版された同名の書籍をアップデートしたものだ。

 本書から明らかになるのは、在日米軍は日本防衛を主眼としているのではなく、あくまで米軍のグローバル戦略のために日本を拠点にして活動しているという事実である。このような在日米軍の活動の中で、日米安保本来の活動はわずかでしかないことから著者は「三割安保」と表現する。

 また著者は、「思いやり予算」などで財政支援する日本は「米軍基地天国」であると論じる。本書の中で、海兵隊の沖縄駐留の理由を逐一検討した上で、その軍事的理由はなく、「本質は財政的理由であり、それと絡む日米関係にかかわる政治的理由である」と喝破している点も興味深い。

 最後に本書は、在日米軍や日米軍事協力に依存しない代替策として、憲法9条の下での日本自身の脱軍備と日本周辺の北東アジア地域の非核化構想を提唱している。

 北朝鮮の核ミサイル開発などで地域の緊張が高まり、「日米同盟の抑止力」といった議論が受け入れられやすい今日だからこそ、在日米軍の在り方を直視し地域の平和構築を提唱する本書の分析と提案は重要だ。鋭い問題意識と詳細なデータに裏づけられた本書は、「日米同盟」の内実を理解し、これに代わる道を考えるためにぜひ読まれるべき一冊である。

 (野添文彬・沖縄国際大学准教授)

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 うめばやし・ひろみち 1937年、兵庫県生まれ。長崎大学客員教授、NPO法人ピースデポ特別顧問。主な著書に「非兵器地帯―核なき世界への道筋」「情報公開でとらえた沖縄の米軍」など。

在日米軍 変貌する日米安保体制 (岩波新書)
梅林 宏道
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