『一条の光 屋良朝苗日記・下』 復帰の原点に返る書


社会
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『一条の光 屋良朝苗日記・下』解説 仲本和彦、宮城修、与那嶺松一郎 琉球新報社・2759円+税

 沖縄戦後史の巨人、屋良朝苗氏の日記下巻が刊行され、完結した。関連年表と人物索引を巻末に加え、米国一次資料や関係者の証言そして随所に的確な解説を伴った本書は、沖縄の戦後史研究にとどまらず、沖縄の現在と未来を照らす優れた手引書になっている。

 下巻の本書は、72年返還が決定した佐藤・ニクソン会談から始まる。「沖縄の祖国復帰」を政治信念として、その実現に全身全霊を傾けた屋良氏にとって、行政主席の立場から、日米両政府を相手に施政権返還交渉のいばらの道が続く。

 コザ騒動、毒ガス移送、沖縄返還協定、ニクソン・ショック、復帰不安、世替わりと目次に目を通しただけで、69年から施政権返還協定に至る72年まで沖縄のたどった道のりが苦難の連続だったことがよく分かる。

 事実、屋良氏の手記は彼の懸命の苦闘と深い苦悩を刻んでいる。日記の中に、相次ぐ事件事故に直面して、「アメリカ軍は何と無神経な事のみくり返すのだろう」(70年12月31日)という怒りの言葉がある。現在の米軍もまったく無神経で、思わずため息が出る。

 また「核抜き本土並み返還」交渉の裏で、日米両政府間には、屋良主席が知る由もなかった核密約や財政密約があったことが幾多の資料で明らかになっている。日記には、「復帰措置に関する建議書」の作成過程が記されているが、「はじめに」を執筆した屋良氏は、「従来の沖縄は余りにも国家権力や基地権力の犠牲となり手段となって利用され過ぎてきました。復帰という歴史の一大転換期にあたって、このような地位からも沖縄は脱却していかなければなりません」と書いている。屋良氏が「新生沖縄は自己決定権が必要だと考えたのではないだろうか」と、解説者の宮城修氏は「あとがき」で指摘している。

 辺野古新基地問題で日米両政府と沖縄県が対立している現状を、特に沖縄の本土復帰の原点に立ち返って考える上で、本書は貴重な多くの示唆を与えてくれる。米軍統治や沖縄復帰運動とは無縁の若い人たちにこそ、ぜひとも読んでもらいたい。(江上能義・琉球大名誉教授)

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 なかもと・かずひこ 1964年生まれ。佐敷町(現南城市)出身。県文化振興会資料公開班班長。

 みやぎ・おさむ 1963年生まれ。琉球新報社論説副委員長。

 よなみね・しょういちろう 1977年那覇市生まれ。琉球新報社経済部記者。

 

一条の光 屋良朝苗日記・下
琉球新報社編
A5判 380頁

¥2,759(税抜き)