『沖縄のアイデンティティー』 自己決定権の系譜を分析


社会
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『沖縄のアイデンティティー』新垣毅著 高文研・1728円

 本書は「続自己決定権」とのサブタイトルが付されているように、前著「沖縄の自己決定権」の続編である。さて、1章で力説されているのは、沖縄人が「歴史の節々で、近代国民国家の『悪魔』と『天使』のような、二つの顔と対面し、破局や挫折を繰り返す中で、『自立』を追求するに至った」と述べているように、近代日本に併合・同化・排除・差別された近現代沖縄の諸様相を熱気溢(あふ)れる文体で叙述している。

 2章では戦後沖縄の復帰運動の軌跡をたどり、50年代を「民族主義的復帰」とし、60年代の運動の高揚期を「憲法復帰」と捉え、70年代の運動の変容を「反戦復帰」と類型化する。そして、運動の挫折が明確になるにつれ、復帰とは何であったかの鋭い問いと日本政府への不信が全面化し、やがて復帰論、反復帰論との白熱的な議論が展開される。

 それが3章以降の論稿である。さまざまな言論人を通してその思想的交差を分析する。

 この意味で、著者が言う「分節化の政治」と文化の捉え方にこそ本書の特色がある。分節化とは筆者の理解によれば、日本帰属を自明とされていたこれまでの文脈・議論に、沖縄および沖縄人を対抗概念として登場させ、沖縄の自立、主体性の主張、自己決定権の行使を包含しつつ、日本そのものに明確な異議申し立てを提起する思想行為を指している。

 言い換えれば、沖縄および沖縄人が日本そのものから自己剥離・自己回復を試み、「沖縄人」概念が新しく読み替えられ自己決定権の行使の主体として登場する。著者によれば、この自己決定権の行使によって沖縄は「自らの未来を切り拓(ひら)く以外に道」はないとする。

 こうして、「沖縄アイデンティティー」の主体化と覚醒は、90年代以降の沖縄の主要潮流となって流出し、日本政府の沖縄政策と対峙(たいじ)する大田昌秀・翁長雄志らのリーダーを生み出し、沖縄はまさに新たな時代を迎える。本書はまさにそうした戦後沖縄思想の到達点を鮮烈に提示した必読の書である。

 (比屋根照夫・琉大名誉教授)

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 あらかき・つよし 1971年那覇市生まれ。琉大卒業後、法政大大学院修士課程修了(社会学)。98年に琉球新報社入社後、中部支社報道部、社会部、編集委員などをへて現在東京報道部長。著書に「沖縄の自己決定権-その歴史的根拠と近未来の展望」など。