競歩とハードルの“二足のわらじ”を履く異色のアスリート、渡口怜選手(沖縄県豊見城市立伊良波中3年)が急成長中だ。
中1でけがのリハビリのために競歩の練習を始めた。2017年3月、全日本能美大会の3000メートル競歩で6位に入り、周囲を驚かせた。
競歩に加え、芽の出なかった長距離をやめ、陸上部の外間龍監督の勧めで110メートル障害を始めた。ハードルとの両立で競歩の実力を伸ばし、今では陸上が沖縄で開催される19年の全国高校総体南部九州大会の優勝や将来の五輪出場を目指すまでに。「出会えて良かった」と感謝する外間監督と毎日必ず交わす日誌で自らを見つめ直し続け、志も高くする。
渡口選手は180センチ、66キロ。股下は105センチあり、長い足が武器だ。昨年12月の長崎陸協大会の3000メートルでは、全日本中学覇者の中尾勇太選手(長崎、清水中)をラスト900メートルで突き放して、15分10秒94の大会新と自己新で優勝した。県大会を制するまでになったハードルの練習でつけた「スピードがあったから仕掛けられた」と相乗効果を実感している。
■栄光と挫折
親の仕事の関係で、小学生時代のほとんどを座間味村の慶留間島で過ごした。陸上の才能に恵まれ、100メートルで県大会優勝。全国で7位に入賞する実力だったトライアスロンのレベル向上へ向け、長距離も始めた。伊良波中で駅伝部に入ると、身長は154センチから一気に180センチまで伸びたが、成長痛によるけがも重なり、成績は振るわず、レギュラーに入れず苦しんだ。悔しさから、競技場で人目をはばからずに泣きじゃくったことも何度もあった。
中2の冬、伸び悩む姿を見かねた母・千代美さんの勧めで陸上部に移り、外間龍監督の助言で初めてハードルに取り組んだ。このころ、競歩の1万メートルと5000メートルの県記録保持者の比嘉大悟(北山高-至学館大)と出会って競歩に打ち込む覚悟も決めた。外間監督は学生時代に10種競技経験者で、渡口の「感覚の良さ、体を動かすセンス」を見抜いた。無理に競技を一本に絞らせなかったことが奏功し、この後、両競技で飛躍的に力を伸ばしていった。
■日誌で養った強い心
陸上部に移り、外間監督との毎日の交換日誌が始まった。同じ部には、80メートル障害(中1~2)の県中学記録保持者で妹の舞(2年)も在籍する。部員は全員日誌交換を行っており、その日の練習内容や気付いた課題などに対し、監督がアドバイスや励ましの赤字を入れてくれる。びっしりきちょうめんに書き込まれた文字が、人一倍練習熱心な渡口の性格を物語る。
大会前などは、監督の言葉を読み直して何度も心を奮い立たせてきた。弱腰で、泣き虫の自分はいつの間にかいなくなっていた。
■勝負強い選手に
県内ではめぼしい大会がなく、中学生までは全国大会の数も限られる競歩の魅力は、「全国でしか勝負できないわくわく感」という。レース中に失格になる難しい競技だが、それも「緊張間が楽しい」と苦にしない。こつさえつかめばタイムが一気に上がるのも競技にのめり込む大きな理由だそうだ。
高校進学後も引き続き競歩とハードルを両立させていくつもりだ。ユースオリンピックの代表となり、世界で戦う日を展望する。まずは目前の3月にある全日本能美大会に向け、優勝を目指し、練習に励む。「記録より、勝負に強い選手になりたい」。周囲の支えに感謝し、流した涙と鍛えてきた努力を糧に、15歳が力強く歩を進める。(石井恭子)