琉球伝統箏曲琉絃会師範の池間北斗(28)が12月、福岡県久留米市で開催された第24回賢順記念全国箏曲コンクール(賢順記念全国箏曲祭振興会主催)で1位に当たる賢順賞に輝いた。同コンクールは基本的に邦楽を対象としており、沖縄からの出場、受賞は初めて。「うれしさと同時に注目されるプレッシャーもある。琉球箏曲や沖縄の音楽、組踊をもっと追求したい」と意欲を示している。
琉球芸能が好きな母の影響で、きょうだい4人全員が芸事をしている。兄の隼人は舞踊家・組踊立方だ。北斗は小学1年から又吉貞子に箏を教わり基礎をたたき込まれた。「人前では『できない』という言葉を使うな」という教えが印象に残っている。「どんな曲にも挑戦しなさい、という意味かなと感じています」
高校2年からは国立劇場おきなわの組踊研修1期生として3年間通った。芸能に本格的にのめり込む転機となった。師匠や親の勧めで応募し、合格したものの、当初は「『組踊って何?』という状態」。講師の宮城文から組踊の地謡を「ゼロから学んだ」。1期生の中で一番年下。「先輩方に付いていこうと必死だったし、引っ張ってもらえた。自分だけではここまで来られなかった。研修がきっかけで今の僕がある」と強調する。
県立芸術大では宮里秀明らに指導を受けた。賢順記念コンクールで演奏した大好きな曲「南洋浜千鳥」も大学時代に初めて演奏した。最初は全く弾けなかったが、宮里の演奏を聴いて大きな刺激を受けた。「『こんなに弾ける人がいるのか』と思い、ギアが変わった」。さらに箏にのめり込み、視野を広げた。芸大でできた人とのつながりも財産になっている。現在は昼の仕事もしながら多くの舞台に出演している。
賢順記念コンクールは雑誌で知って応募した。「自分が今どれだけできるのか試したい。琉球箏曲を知ってほしい」という思いからだ。全国から42人が応募した。予選では邦楽の「六段の調(しらべ)」と自由に選んだ曲の音源で審査された。
「六段の調」は琉球箏曲「六段菅攪(すががち)」と同一系統の曲とされる。代わりに「六段菅攪」の音源を送り、無事通過した。本選では25人が自由選択曲を演奏した。北斗は箏の独奏に「下千鳥」「浜千鳥」「南洋浜千鳥」を組み合わせ、歌いながら演奏した。
受賞について「まさか1位とは思わなかった。意識を高めていかないといけない」と気を引き締める。コンクールでは「琉球箏曲とは何か」と聞かれ、見詰め直すきっかけにもなった。琉球箏曲は邦楽に比べて弦の張りが緩く、コンクールでは「心が落ち着く音」と評された。「歌三線の伴奏をする縁の下の力持ちでもあり、自ら歌うこともある。包み込むような幻想的な音色が箏の魅力ではないか」
今年も多くの舞台が控え、7月には東京都の紀尾井ホールで開催される賢順賞歴代受賞者の演奏会に出演する。「一つ一つの舞台に集中して謙虚にやっていきたい。いつか独演会もできればいい」と前を見据えている。
(伊佐尚記)