陸上男子走り幅跳びの津波響樹(19)=那覇西高―東洋大2年=は昨年9月、8メートル09を記録し、沖縄県勢としても初の大台を超えた。168センチと小柄ながら、短距離で鍛えたスピードとばねは抜群で、地面をとらえて加速する助走と、しなやかな空中動作で記録を伸ばす。日本人で8メートルを超えたジャンパーはこれまで20人。国内歴代10位の記録を刻み、日本記録まであと16センチに迫った自信をステップにさらなる成長を誓う。(大城周子)
津波は短距離や駅伝の強豪で知られる東洋大でハイレベルな仲間に囲まれ、力を磨いている。中でも昨年100メートルで日本人初の9秒台を記録した桐生祥秀の存在は大きい。2学年上の桐生とはよく食事に行くなど仲が良く「桐生さんは陸上を楽しんでいて、練習では早めに来て自主トレーニングする努力もしている。切り替えができている」と一流の姿勢を間近で吸収している。
昨年9月の日本学生対校選手権。桐生が「10秒の壁」を破る瞬間を目の前で見た。スタート練習では桐生に勝つこともあるという津波。「自分もやってやろうとスイッチが入った感じはあった」。助走からこれまでにないスピードを感じたといい、自己ベストを32センチも更新する8メートル09の大ジャンプで優勝。記録は2017年の国内最高だった。
華やかさの裏で、昨年は苦しい1年でもあった。3月に太もも裏の肉離れを起こし、本格的な練習復帰まで3カ月を要した。走ることもトレーニングもできない中、活躍するチームメートたちの姿に「俺は何をしているんだろうって正直、病みました」と苦笑する。
高校時代も4度の疲労骨折を経験し、実績を残したのは3年時と遅咲きだった。「今回もケアの重要性を学んだので、結果的にいい経験になったと思える」。故障や課題なども前向きにとらえる精神力が津波の強さにもつながっている。
男子走り幅跳びで日本人の五輪出場は04年のアテネ以降、途絶えている。日本記録も1992年に森長正樹(当時日大)が記録した8メートル25で、四半世紀も時が止まったままだ。
来年は世界選手権、その翌年には東京五輪がある。津波にとっては年齢的にベストタイミングで大舞台が巡ってくる。本人は「まずは8メートルをコンスタントに跳んで一発屋じゃないと証明したい」と足元を見詰める。
はにかむような、爽やかな笑顔が印象的な走り幅跳び界のホープ。桐生を筆頭にサニブラウン・ハキーム、ケンブリッジ飛鳥らスターがそろう若手世代とともに、輝きを放てるか。2018年、津波にとって世界に向けた試金石の1年になる。