『近世琉球貿易史の研究』 貿易史から琉球史問う


社会
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『近世琉球貿易史の研究』上原兼善著 岩田書院・13824円

 著者は、琉球の対明清貿易史の推移を日本市場との関わりから近世期全般にわたって叙述した『鎖国と藩貿易』を1981年に著している。約35年後の刊行となった本書は、その改定版ではない。この間に蓄積されてきた見解を吸収し、新出史料(評定所文書、尚家文書など)を丹念に分析することによって、琉球貿易史を巨視的に見渡し、かつ緻密な論理と実証性をあわせ持った大著である。旧来の研究水準を大きく引き上げた労作と言えよう。

 本書の主な特徴は次の点にある。一つ目は、琉球貿易を中国-琉球-薩摩藩の関係史の枠組みで捉えるのではなく、日本市場との関係を組み込んで論及している点にある。長崎貿易のサブルートとして副次的に位置付けられていた琉球貿易史を、複眼的に捉えることで日本市場との構造的な関係性を明らかにしている。

 二つ目は、琉球王府の財政構造から貿易史を再構築した点にある。貿易史研究は往々にして商品の流通論に陥りがちである。それに対して本書は、貿易と王府財政を有機的に関連させることによって、琉球の国内生産と対外貿易を統一的に捉える視角を提起している。

 三つ目は、鬱金(ウコン)などの琉球産物に対する薩摩藩の収奪強化とその動向への琉球側の反発、抵抗を明らかにした点である。琉・薩双方の矛盾を浮き彫りにすることで、薩摩藩の天保改革の新たな一面を析出している。薩摩藩による黒糖増産要求に対して、琉球側は農民の窮状を理由に異議を唱えるなど、琉球の国益を守ろうとしていた。琉球側の自律的な動向の解明につながる論点と言えよう。

 四つ目は、貿易の担い手(渡唐役者や船頭・水主ら)へ着目した点にある。五つ目に、薩摩藩は琉球の特産品を収奪するだけでなく、次第に薩摩藩の特産品を輸出・売却する市場として琉球を位置付けるようになっていた。これらの諸点から、琉球は薩摩藩の「内国植民地」として位置付けられるとする。

 本書はこのように、貿易史から琉球史全体に関わる多くの論点を提起しており、今後それらをめぐって新たな次元での研究へ道を開く刺激に満ちた研究書である。(豊見山和行・琉球大学教授、琉球史)

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 うえはら・けんぜん 1944年生まれ、那覇市出身。岡山大学名誉教授。宮崎大学助教授、岡山大学教育学部助教授などをへて96年~2009年まで岡山大学教授。「近世琉球貿易史の研究」が2017年に角川源義賞、徳川賞、日経・経済図書文化賞を受賞した。

 

近世琉球貿易史の研究 (近世史研究叢書)
上原 兼善
岩田書院
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