『独裁の宴』 「同盟が有事に機能」は幻想


社会
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『独裁の宴』手嶋龍一、佐藤優著 中公新書ラクレ・885円

 2人の著名な外交専門家による対談である。長年の知見を基に、冒頭から昨今の北朝鮮情勢をめぐる鋭い指摘が並ぶ。北朝鮮の核ミサイル発射に毎回Jアラートを鳴らして過剰反応しているのは、世界の中でも日本政府だけだ。それは、安倍内閣が不祥事から国民の目をそらそうと脅威を必要以上に強調しているからだという。他方、著者たちが見た米国は、北朝鮮が米国本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発するか、実戦を想定した水爆実験を実施しない限りは、北朝鮮に対する武力行使を行うつもりはない。
 しかし、米国が北朝鮮への先制攻撃に踏み切る場合には、同国は確実に日本の共同軍事行動を求めるだろう。対米協調を唱えてきた日本が同調しなければ日米同盟が危機に陥る、と著者らは危ぶむ。米国が日本の頭越しに、ICBM開発断念を条件に北朝鮮と手打ちする可能性を回避する方策も不十分だ。
 9・11テロ後の米国が中東に傾注して東アジアに「力の空白」を生じさせた結果、中国の台頭や北朝鮮の核開発加速を許した、と著者らは見抜く。米国主導の東アジア秩序が確立されない限り「歪み」は正されない、というのが両者の一致した見解である。
 だが、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権の誕生によって、米国が東アジアの秩序形成を主導する可能性は一層低下した。「アメリカ・ファースト」は決して突然変異ではなく、米国政治の中に確固たる基盤を持つ思想であるのに、日本人はこれを過小評価しているという。著者らは、「有事には必ず日米同盟が機能する」というのが場合によっては幻想になりかねないことを、日本は肝に銘じるべきだと喝破する。
 他に中露の動向や中東情勢、憲法改正論議など縦横無尽に分析が展開されている。
 最後に一点だけ、台湾有事には在沖海兵隊が出動するとされているが、これは96年の台湾海峡危機時に普天間移設に反対する海兵隊が喧伝(けんでん)した議論で、実際は明らかでない。
 (山本章子・沖縄国際大学非常勤講師)

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 てしま・りゅういち 外交ジャーナリスト・作家。1997年から8年間NHKワシントン支局長。小説「ウルトラ・ダラー」などがベストセラーに。

 さとう・まさる 1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。主な書著に『国家の罠』『自壊する帝国』『修羅場の極意』など多数。

 

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