『精神障害とともに』 社会繋ぐ「仲間」の存在


社会
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『精神障害とともに』南日本新聞取材班 ラグーナ出版・1512円

 精神医療の取材をする中で初めて「社会的入院」という言葉を知った。今から30数年前のことになる。医学的に入院治療の必要はないにもかかわらず、社会的受け皿がないために病院に入院していることを意味する。なぜ、心病むという、いつ誰にでも起こりうる病になると国際的にも際立った「長期入院」になってしまうのか。私たちは自覚するもしないも日本という国がこれまで精神疾患に対して隔離収容政策をとってきた影響を受け、意図せずとも結果として精神障害者を排除している。

 この本は2016年9月から17年6月まで南日本新聞に73回にわたって連載した「精神障害とともに」をまとめたもの。取材のきっかけは鹿児島県の地方紙として鹿児島における精神障害の状況を見つめなおしたところにある。人口に対するベッド数、入院患者数、20年以上の長期入院患者数が最も多いのが鹿児島だと示すデータの前で問う。「われわれは今、精神障害のことをどれだけ理解しているだろうか」と。受け皿さえあればすぐにでも退院できると言われながらなかなか進展しない地域への移行。現実は退院したその日から必要になる住まいの問題ひとつをとっても大きな壁がある。差別・偏見からなかなか部屋を借してもらえない。やっと探せても連帯保証人のなり手がない。家族の協力も得られない場合も少なくない。

 そういう中で注目すべき支え手として病院で働くピアサポーター、自立訓練施設で働くピアスタッフが取り上げられている。ピアは「仲間」を意味する。当事者ならではの視点や発言が、長期の入院で退院後の厳しい社会復帰に不安を抱えている当事者の背中をゆっくり押していく。だれも望んで病院に長期入院する患者はいない。退院できたこと、就労の場に就けたことを喜ぶ声が文字を通して伝わってくる。

 公立精神科病院を全廃したイタリアの現状報告もある。すべての人が共に暮らす社会について考える一冊。ちなみに本の発行所は(株)ラグーナ出版。精神障害のある28人が働く全国でも珍しい鹿児島市内にある出版社だという。

(山城紀子・ジャーナリスト)

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 南日本新聞社は鹿児島県全域を主な発行エリアにしている地方紙。2016年に創立135年を迎えた。連載「精神障害とともに」(全73回)は、2017年度日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞した。

精神障害とともに
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