『琉球沖縄と台湾』 足で書かれた「博物館」


社会
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『琉球沖縄と台湾』又吉盛清著 同時代社・4104円

 本書は今から28年前に刊行された『日本植民地下の台湾と沖縄』の、この間の知見を新たに加えて出来上がった増補版である。近代日本の最初の海外侵略だった、いわゆる「台湾出兵」こそ「琉球処分」に続く、日本による沖縄の隷属(れいぞく)の第2弾であり、日清戦争での日本の勝利はそれを決定的にした。

 そして、台湾の領有と同時に沖縄人の渡台が始まるとともに、台湾の植民地化に対して軍事や警察、鉄道や港湾の建設、教育などの、あらゆる分野において、その一端を担うに至った。そういう意味では、沖縄人は帝国日本に対しては被害者であったが、台湾人に対しては紛れもない加害者だった。そういう沖縄の隷属的な構造は、現在も変わっていない。以上が本書の中で繰り返し展開されている又吉さんの主張である。

 本書の圧巻は、沖縄人の出世頭である照屋宏をヒーローとした台湾鉄道建設物語と、霧社事件を頂点とする抗日武装勢力の鎮圧の最前線に立たされ、命を失っていく沖縄人警察官のドラマである。日本共産党の幹部だった渡辺政之輔が上海でコミンテルンの代表と会い、帰国する途中、台湾共産党との連絡のため基隆港に立ち寄ったところを、追い詰められてピストル自殺するが、その担当警察官が職務に忠実な沖縄人であったことも本書では明らかにされ、意外な驚きであった。

 しかし、本書は、このような劇的な事象だけを扱っているわけではない、台湾人に「素潜り」を教える沖縄人漁師、「琉球女」と呼ばれた売春婦、手の甲に入れ墨があったため「日本の生蕃(せいばん)」といわれた沖縄人女性の行商など、新領土における庶民の暮らしにも、又吉さんの探求は及んでいる。

 又吉さんの探求の魅力は多くのさまざまな文献の掘り起こしにあるだけではなく、その現場主義にある。筆者も又吉さんの懇切なガイドで台湾本島だけではなく、澎湖島や金門島まで足を伸ばしたことがある。結論的にいえば、本書は写真も図解も豊富、日本帝国主義下の台湾・沖縄関係についての文字によって書かれた、いや足で書かれた博物館といってよい。

(西田勝・文芸評論家、植民地文化学会代表)

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 またよし・せいきよ 1941年生まれ、浦添市出身。沖縄大学客員教授(沖縄・アジア地域研究)。浦添市立図書館長、美術館長、沖大教授をへて現職。著書に『日露戦争百年-沖縄人と中国の戦場』など。

 

大日本帝国植民地下の琉球沖縄と台湾
又吉 盛清
同時代社 (2018-01-12)
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