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『法廷で裁かれる 南洋戦・フィリピン戦 訴状編』 悲惨な歴史 伝える記録書

『法廷で裁かれる 南洋戦・フィリピン戦 訴状編』瑞慶山茂編著 高文研・5400円

 この本を手にした時、表紙の絵に衝撃を受けた。南洋サイパン島のバンザイ岬とその下に描かれた海は血に染まっている。この海の血の一滴が私たち家族のものであり、飛び込んで亡くなった親戚のお兄ちゃんのものであり、共に飛び込んだ者たちのものだからである。

 「沖縄は国内で唯一地上戦が行われた場所」という文言に接する度に、それは違うと思い続けてきた。私たち家族の暮らしていたサイパンでも、沖縄戦と同じ地上戦があり、集団自決(集団死)があり、餓死(がし)があり、日本兵による壕(ごう)からの追い出しがあった。そのことを、本書の中では「アジア太平洋戦争で初めて一般住民居住地で一般住民を巻き込んだ壮絶な日米の地上戦が闘われた」と明記している。

 この書は、南洋戦・フィリピン戦の強いられた民間人玉砕の国家責任を問う裁判の〈訴状編〉である。編、著者の瑞慶山茂氏は出版の目的を「南洋戦・フィリピン戦被害者が国に対して戦争被害の国家責任を問う法廷闘争を行ったことを記録として、後世に伝えるため」と記している。「無念のうちに南の海に散った人々の命の霊を弔い、自らの人間回復と恒久平和を」と訴える高齢の原告らの切なる願いを真摯(しんし)に受け止め、行動に移した。

 国の責任を問うべく訴訟を起こした原告らに寄り添い、専門的な知識を幾重にも重ねて闘っている。国を相手に闘うため、膨大な資料にあたり、南洋戦・フィリピン戦のみではなく、沖縄戦など、国が起こしたアジア太平洋戦争の経緯、それに伴う国の責任を詳細に書き示している。

 また、精神科医による原告らの「心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断書、提訴経過一覧や提出証拠一覧、本書関連の用語解説など内容は多岐にわたっている。この書は、沖縄戦、南洋戦・フィリピン戦を理解するための貴重な手引書であり、戦争の悲惨さを次世代に伝える記録書でもある。

 この訴訟の判決が今年1月23日に言い渡された。国は原告らの請求を「棄却」した。無念のうちに、南の島々の野に、海に散った人々の霊を弔える日は来るのだろうか。

 (池宮城けい・日本児童文学者協会沖縄支部長)

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 ずけやま・しげる 1943年6月、南洋諸島パラオ・コロール島生まれ。弁護士。46年沖縄に引き揚げる。71年に弁護士登録。東京大空襲訴訟常任弁護団。沖縄・民間戦争被害者の会顧問弁護団長。

 

 

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