【島人の目】カナリア諸島の空気感


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 昨年のちょうど今頃、スペインのカナリア諸島の一つフエルテベントゥーラ島を訪ねた。カナリア諸島はスペイン本土から遠く離れたアフリカ大陸の北西洋上にある島々。かつてスペインが中南米(ちゅうなんべい)大陸を支配した時代、軍事・商業・政治の中継基地として重要な役割を果たした。

 カナリア諸島には以前から興味があった。スペイン本土のはるか南に位置するところが、日本における故郷の沖縄のあり方を思わせ、冬も暖かい常夏ならぬ「常春の島」だと聞いていたからだ。

 沖縄本島より少し大きいフエルテベントゥーラ島の印象は、少なくとも気温はまさに沖縄である。ところが3月も終わりに近い季節にしては寒い。強い風が間断なく吹き募るせいで体感温度が低いのだ。

 Alisios(アリシオス)という名のその風は、海を隔ててたった100キロ先のサハラ砂漠から吹いてくる。コロンブスはアメリカ大陸発見の旅に出るに際して、「カナリア諸島でアリシオスをつかめば幸運が舞い込む」と言ったとされる。帆船の命は風なのである。

 コロンブスはスペイン・アンダルシア沿岸の強風に押されて大海に出て、カナリア諸島で水と物資の補給をした後、サハラ砂漠由来の順風アリシオスを待って再び荒海へと乗り出して行った。スペインとポルトガルの海の男たちは、多くがコロンブスと同じやり方で大海に乗り出し、南米大陸のほとんどを手中に収めた。

 歴史はその後、欧州の列強を巻き込んで興亡を繰り返しながら大英帝国が圧倒的な力を持つに至り、やがて米国が台頭し支配して現在に至っている。古代ローマの次に欧州の力の源泉を作ったのが大航海時代だ。そんな歴史の雄大にかかわる小さな島で「歴史」を思いつつ、僕は故郷の沖縄に似た「島の空気感」を満喫した。

 (仲宗根雅則 イタリア在、TVディレテクター)