【宜野湾】磁石の性質を利用して方位を測定する「磁気コンパス」の誤差修正を担う「コンパスアジャスタ」という資格がある。沖縄県内で唯一、その資格を取得しているのが、宜野湾市愛知に住む1級海技士の上原伸浩さん(66)だ。航海士として世界中の海を巡ったり、講師として船員を育成したりと、40年以上にわたり海事産業に携わってきた。電力を使ったコンパスが普及する中、自身の経験から「磁気コンパスは停止することがないため、安全運航のためには必要だ」と呼び掛けている。
1951年、石垣市登野城で生まれた上原さん。糸満市出身で漁師だった祖父と父の影響で、幼い頃から「船乗りになりたい」との夢を抱いていた。沖縄水産高校などで学び、73年に東京の水産会社に入社。漁船や貨物船の航海士として世界中の海を巡り、81年以降は学校などの講師として船員を育成した。
資格を取得するきっかけは2010年、上原さんに届いた一本の電話だった。「沖縄の船舶の安全運航のために一肌脱いでくれないか」。声の主は、琉球政府時代に船舶検査官を務めていたという宮里清五郎さん(故人)。それまで県内唯一の資格取得者だった宮里さんが高齢となり、跡継ぎを求めて電話を入れた。
当時は愛媛県今治市にある船員らを育成する学校の教員を務めていたが、同市内の造船会社に通って勉強を続け、翌11年に資格を取得した。12年に帰沖して以降は、官公庁や漁師らからの依頼を受け、磁場の変化の影響で徐々に方位がずれる磁気コンパスの定期的な誤差修正を担っている。
「漁師らに『方位がちゃんと分かるようになったよ』と言われたらうれしい」とやりがいを語る上原さん。一方で、若い漁師を中心に定期的な修正をしない人や電気を動力としたコンパスのみを装備する人が増えていると言い、「電力を使ったコンパスは非常に便利だが、雷が落ちるなどして動かなくなれば、遭難の危険もある。止まることのない磁気コンパスの大切さを知ってほしい」と呼び掛けている。
コンパスアジャスタの資格は日本船舶品質管理協会(東京)が認定、今年4月現在、取得者は全国で個人正会員が66人、法人所属会員が59人いるという。
(長嶺真輝)