『旅の反復 世界のウチナーンチュを訪ねて』 人と人つなぐ旅の記録


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『旅の反復 世界のウチナーンチュを訪ねて』組原洋著 学文社・1296円

 「世界のウチナーンチュ」と呼ばれる人たちは海外にいると、私たちは思っている。だから組原洋さんも、ハワイ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、ボリビアへと旅をする。しかし、組原さんと、一緒に旅をする娘さんの慎(しん)子さんこそ、誰よりも豊かに、というか、けた外れなまでに「世界のウチナーンチュ」を体現している。

 「世界のウチナーンチュ」とは、海外に移民した人とその子孫たちだけではなく、組原さん親子のような、世界中にいる沖縄の人びとに関心をもって訪ね歩くうちに自身が彼らのネットワークの担い手になり、人と人とをつないでいる人のことを指すのだと、本書を読んで実感した。

 この本を読むと、自分もコロニア・オキナワに行ってみようかな、ハワイのサンライズ食堂で沖縄そばを食べたいなという気になってくる。読み手に旅をうながし、「世界のウチナーンチュ」になっていく人びとを増やす力を持った本だ。

 今年はブラジルとアルゼンチンが沖縄移民110周年を迎える。本書の中では組原さんが、10年前の100周年記念にあわせて両国を訪ねた記録がある。本書を片手に、10年の変化と変わらずに続くものを探して、ブラジルとアルゼンチンを旅してみてはいかがだろうか。

 ハワイの旅の記録も面白かった。組原さんは、娘さんとハワイに着いてから、「どうしたらウチナーンチュと会えるだろうか」と相談し、ショッピングセンターへ行ってみる。インフォメーションセンターに日本人の顔をした女性たちがいて、ひとりがウチナーンチュではないが沖縄クラブのメンバーで、彼女が電話すると間もなくナカイマさんが登場! と、要約しているだけで笑みがこぼれてくる。組原親子も、ハワイのオキナワンの皆さんも、みんなおおらかで本当にすばらしいのだ。

 「沖縄から来ました」という一言で、世界とつながれる。そんな都道府県は他にない。その豊かさを、読者には歩いて確かめてほしい。

 (野入直美・琉球大学人文社会学部准教授)

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 くみはら・ひろし 1948年鳥取市生まれ。72年東京大法学部卒業。74年司法修習修了。弁護士、沖縄大学教授。著書に『旅の深層』(学文社、2013年)などがある。

 

旅の反復 世界のウチナーンチュを訪ねて:父と娘の旅道中
組原 洋
学文社
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