【島人の目】ヤギ料理にこだわるわけ


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 4月初めの復活祭でも子ヤギ料理を食べた。復活祭はイエス・キリストが死後3日目によみがえったことを祝う祭り。イタリアでは伝統的に子羊や子ヤギの肉が食される。イエス・キリストが贖罪(しょくざい)のために神にささげられる子羊、すなわち「神の子羊」とみなされることから、復活祭に子羊を食べてイエス・キリストに感謝をする習慣ができた。子羊の肉はやがてそれに似た子ヤギの肉にも広がっていった。

 僕はイタリアでは1年に一度、復活祭の日に子ヤギの肉を食べるのが習わしとなっている。その習いが高じて、地中海域を旅するときは各地の子ヤギ料理を食べ歩くようになった。地中海域の国々では、子羊や子ヤギの肉がよく食べられ味も素晴らしい。

 子ヤギ料理にこだわるのは、単純にその料理が「おいしくて好き」というのがまず第一だが、自分の中に故郷の沖縄へのノスタルジーがあるからだ。島が貧しかった子どものころは、ヤギ肉は貴重かつ高級な食材なので、豚肉と同様にあまり食べることはできなかった。たまに食べるとひどくおいしいと感じた。

 島々が豊かになった今は、帰郷の際にはその気になればいくらでも食べられる。が、昔ほどうまいとは感じなくなった。嫌いではないが料理法が単調で肉が大味と思うようになったのだ。

 イタリアを含む地中海域の子ヤギの肉は柔らかく上品な味がする。調理法もバラエティーに富んでいてやぎ独特のにおいもない。成獣の肉ではなく草を食(は)む前の小さなヤギの肉だからだ。

 生まれて間もない子ヤギをつぶして食べるのは罪深くかつ大きなぜいたくである。だが以前にもここで書いたようにかわいそうなどと偽善的な言葉は口に出したくない。それを言えば全ての家畜をつぶすことがかわいそうということになるのだから。
(仲宗根雅則 イタリア在、テレビディレクター)