『奄美・沖縄諸島先史学の最前線』 協働研究の実践で分析


社会
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『奄美・沖縄諸島先史学の最前線』高宮広土編 南方新社・2700円

 “文字のない時代”すなわち先史時代は、奄美・沖縄で確認できる最古のヒトから今日まで約3万年という時間軸の95%以上を占める。この小さな島嶼(とうしょ)で数千年にもわたって狩猟採集生活が営まれ、やがて王国成立に至る歴史プロセスは世界的にもきわめて稀(まれ)な事例と編者は説く。

 本書は、昨年1月に奄美市で開催された同名の公開シンポジウムを書籍化したものであり、次の三つのテーマが掲げられている。奄美・沖縄にヒトが住み始めたのはいつ頃で、どこから来たのか? 彼らは、「島」という資源が限られた環境でどのような生業戦略で生存を試みたのか? 先史時代にはどのような文化があったのか?

 これらのテーマは、彼らから現代人類までどのように繋(つな)がるのか? という本質的なテーマにも関わる。編者の高宮氏は奄美・沖縄先史学の誇れる点として、考古学と他の関連分野の協働研究が国内や世界でみても先進的に実践されている点を挙げる。

 本書では、考古学のほか人類学・貝類学・遺伝学など各分野の研究者が、さまざまな切り口から奄美・沖縄先史時代の人や文化の変遷について考察を展開する。

 少しだけ紹介すると、DNA分析からみた南西諸島集団のルーツ、古人骨の化学分析(炭素・窒素同位体比分析)からみた食生活の復元、遺跡の土を篩(ふる)いにかけて回収した小さな貝やカタツムリ、魚骨・動物骨からみえる狩猟採集活動や環境の変遷、他地域の土器や舶載食器類から描かれるダイナミックな交易活動と社会の複雑化などである。

 また、各章とともに奄美・沖縄の島々における最新情報や話題がコラムの形で加わる。考古学をはじめ多くの分野との協働研究によって、文字記録が無い時代にもかかわらず、数千年もの遥(はる)か先に生きた人々や文化のありようがここまでみえてくるのかと刮眼(かつがん)するとともに、学際的研究の醍醐味(だいごみ)が伝わる一冊である。
(安座間充・沖縄考古学会会員)

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 北野堪重郎、具志堅亮、黒住耐二、呉屋義勝、篠田謙一、新里亮人、新里貴之、高梨修、高橋遼平、高宮広土、竹盛窪、樋泉岳二、野﨑拓司、南勇輔、山崎真治 (50音順)