【東京】ユネスコ(国連教育科学文化機関)世界遺産委員会の諮問機関、国際自然保護連合(IUCN)が世界自然遺産を目指す「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の「登録延期」を勧告した。多くの関係者にとって想定外となった勧告をどう受け止め、今後に向かうべきか。2002年からユネスコに勤務し、世界遺産のプログラム専門官として約10年間各国への提言や支援に関わった聖心女子大の岡橋純子准教授は、勧告を前向きに受け止めるべきだと指摘する。
IUCN勧告は、6月下旬からの世界遺産委員会で審査の参考とされる。環境省は現段階で推薦取り下げの可能性にも言及しており、審査に進むか判断を示していない。
世界遺産委員会では諮問機関の判断に不服を示した国がロビー活動を展開し、勧告が覆り“逆転登録”が決まるケースがある。こうした政治的働き掛けで性急に登録を目指す傾向は「世界遺産条約システム自体の信頼性を脅かすことになり、懸念されている」(岡橋氏)動きでもある。
国連職員として、アフリカや南アジアで世界遺産が抱える保全上の課題に対処した岡橋氏は、今回の勧告を「推薦地に価値がないと言っているわけではない。ポテンシャルを認め、価値を担保するための十分な指定範囲を再検討するなど、具体的な助言が含まれ明快だ」と受け止めた。委員会で勧告を受け入れた上で、保全力を高める中長期的な取り組みが重要だと指摘する。
委員会では既に登録された遺産の保全状況も議題になり、保全管理が不十分な遺産の価値が問題になる場面もある。岡橋氏は「最初の時点でじっくり考えられるほど(遺産登録後も見据えた)長期的な問題は少なくて済む。登録はきっかけであってゴールではない」と強調した。
近年、世界遺産の諮問機関が「登録」を勧告するのは全体の5~6割程度で、「登録延期」は珍しいことではない。岡橋氏は「(勧告を)ポジティブに受け止め見直していくことが一番大切」と語った。その上で、海外の自然遺産に着目することに触れ「世界遺産になることがどういうことか。具体的に捉えるステップとして、現場ベースの情報交換などの国際交流は無意味ではない」と付け加えた。