『合同歌集 花ゆうな第24集』 31人の人生を紡ぐ


社会
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『合同歌集 花ゆうな第24集』花ゆうな短歌会編 新星出版・2千円

 花ゆうな短歌会による24冊目の合同歌集。第1章は会員31人の歌775首がある。歌歴の長い作者たちの人生が歌境に深い味わいを与えている。

 病と向き合って生きる歌、家族を慈しむ歌、自然や日常生活を細やかな観察と優れた表現力で詠む歌など、背後には31人の人生が見え隠れする。どの歌も平明で解(わか)りやすく、歌作りの基本に忠実な歌集となっている。しかし内容は深く、沖縄の現実や不条理への憤りなど、困難な主題から目を逸(そ)らさず真摯(しんし)に歌を紡いでいる。日常詠から印象的だった歌を挙げてみたい。

切りそこね床に転がる人参は吾が孤独なる魂のごとし 松瀬トヨ子

卒寿までがんばらうねと吾が胸のペースメーカーを時に労ふ 伊波邦枝

雨垂れの雫の並ぶ手摺(てすり)二本ドレミを歌ひ零るるもよし 比嘉美智子

 沖縄詠は戦争や基地への怒りから、抒情性を欠くと言われるが、主題を表だてず柔軟に独自の境地を模索する歌もある。

黙々と甘蔗刈る農夫の背の山に兵を吊り下げオスプレイ飛ぶ 金城芳子

レッグウォーマー履く手止まりぬ寒の房に基地拒む人の素足思へば 湧稲國操

をさな日の戦争の記憶戻る日の雨の六月ひかりさぶしゑ 永吉京子

 1首目の歌は「農」の風景と米軍基地の演習が同時進行している危険な日常を描写することで、声高に言わずとも心に響く歌になっている。つづく2作にも権力や戦争の不安から生じる複雑な思いを、表だてずに体感やひかりなどで表現する工夫がみられる。

 第2章には4人のエッセーがある。比嘉美織の「東京の街」は窪田空穂や石川啄木の歌を絡ませた作品だ。内間美智子の短歌への思い、木場由美子の短歌と茶道の考察は面白い。高良芳子の「母を詠う」は101歳で亡くなった母への愛と介護を綴(つづ)っている。31人の人生が詠まれた「花ゆうな」第24集は重厚でおおらかな歌集である。

 (伊波瞳 歌林の会)