『はじめての沖縄』 問い直す「沖縄らしさ」


社会
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『はじめての沖縄』岸政彦著 新曜社・1728円

 序章を数頁読んで、めんどくさそうな内容だなと思ったら、その数行後に著者自身が「だからこの本は『めんどくさい』本になると思う」と書いていた。どこからこの「めんどくささ」がくるかといえば、「沖縄について考えること」を「考える」というのが、この本のテーマだからだ。僕の熱量が少し上がる。

 社会学者である著者は研究テーマとして、沖縄、生活史を掲げ、「沖縄らしさとは何か」というテーゼを追い求めている。その手法となるのが、さまざまな沖縄の人たちへの「聞き書き」である。めんどくさいフレームをもつ本にもかかわらず、読みやすいのは、こうした沖縄の人たちの語り、エピソードが豊富にあるからだ。きわめて学問的な「沖縄あるある」である。

 「自治の感覚」「沖縄アイデンティティ」「変化と喪失」「戦後の人口増加と集中による経済の発展」など、著者の沖縄研究におけるキーワードとなる視点が、自らの沖縄体験とからめてナイーブに語られていく。沖縄戦に関する聞き書きの様子に思いを馳(は)せてみたり、戦後沖縄の高度経済成長に関しての社会学的な指摘(「この成長と変化は、沖縄の人びとが、自分たち自身で成し遂げたことなのだ。米軍のおかげなんて思わなくていい」)に一理あるなと思いつつ、考えた。ここで語られている沖縄は、僕が暮らしてきた「ふつうの沖縄」なのだろうか、と。

 本書における著者の立ち位置(私、もしくは私たち)は「ナイチャー」である。「それは『沖縄』ではない、ということだ」。当たり前のことだと思うかもしれないが「沖縄らしさ」にふれて思わず立ちすくむようなその感覚を、「ウチナンチュ」(本書での表記)と「ナイチャー」という二項対立的に語るのではなく、沖縄戦を起因として現在までつらなる「沖縄の独自の『歴史と構造』の問題」として社会学的にとらえようとするこの試みは、沖縄病と言われるナイチャーだけではなく、沖縄の人が語る「沖縄らしさ」への問い直しにもなるのかもしれない。

 (新城和博・編集者)

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 きし・まさひこ 1967年生まれ。社会学者。龍谷大学社会学部教員を経て、立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。研究テーマは沖縄、生活史、社会調査方法論。著作に『同化と他者化-戦後沖縄の本土就職者たち』など。

 

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