『ウクレレきよしの歌謡医学エッセイ』本当のユーモアに満ちて


社会
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『ウクレレきよしの歌謡医学エッセイ』長田清著 幻冬舎・1188円

 自分を可笑(おか)しがることは正直で謙虚で、しかも自信がないと出来(でき)ないことだと思う。自分の失敗や欠点を率直に認め、人にも話し、一緒に笑い合うことは、心に余裕がなければ出来ないことである。本当のユーモアは自分のみを笑いの対象とすることであり、決して人を傷つけない。

 精神科医・長田清氏がこの5月に出版した『ウクレレきよしの歌謡医学エッセイ』は、自分を可笑しがるという本当のユーモアに満ちた、夏の暑さを忘れる一服の清涼剤である。

 細川たかしの『心のこり』の歌詞「私バカよね、おバカさんよね」という文句が好きだという。「小さな失敗を重ねた時などに、この言葉が浮かんできてつい口ずさんでしまいます。自分の愚かさに呆(あき)れる自責の念です。私はこの軽妙な自嘲の響きが好きです。おバカさんだけど嫌いじゃない」。私はそういう長田氏が好きです。

 この本は、歌謡医学エッセイと音楽体験エッセイの二つの内容に分かれている。

 歌謡医学エッセイには約100曲の歌が登場するが、作者はその歌の主人公に共感し、分かりやすい心理分析をしている。

 音楽体験エッセイは、この本の副題の「歌は世につれ予(よ)は歌につれ」の如(ごと)く、少年時代から現在に至るまでの長い歳月の歌とともに歩んできた人生をいろいろなエピソードを交えて語っている。

 最後の「青春の余韻」は、懐かしさで読む者の胸を締めつける。N高校のそばにあった「かどやレストラン」で、昼休みに同級生とたむろしてジュークボックスをいつも聴いていたが、そのレストランはもうない。

 「あれほど皆が美しく、一途に燃えて、平等に輝いていた日々は、その後の人生にはなかったと思う。その青春の輝きを、脳内の八ミリ映写機がカタカタと、望めばいつでも網膜に映し出してくれる。脳内ジュークボックスは無料で音楽かけ放題」。

(中山勲、玉木病院院長、沖縄エッセイスト・クラブ会員)

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 ながた きよし 那覇市出身。精神科医。徳島大学大学院、林道倫精神科神経科病院、都立松沢病院、県立精和病院勤務を経て、2001年クリニックを開院。

 

ウクレレきよしの 歌謡医学エッセイ 歌は世につれ予は歌につれ
長田 清
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