『八重山を学ぶ』 共有財産になる入門書


社会
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『八重山を学ぶ』 「八重山を学ぶ」刊行委員会編著 沖縄時事出版・2160円

 本書は、八重山の自然・歴史・文化の3分野を1冊にまとめた市民・県民向けの入門書である。自然分野では、各島の独特な景観・地形や生物相・生態系が豊富な写真やイラストで説明されており、見ていて楽しく分かりやすい。文化分野では、「詩の国、うたの島、踊りの里」の原点ともいうべき御嶽や寺社の由来、先人たちが創造し守り続けてきた古謡・舞踊などの伝統文化が詳しく紹介されていて興味深い。歴史分野では、最新の情報が盛り込まれているのが特徴だ。

 2010年、白保竿根田原(さおねたばる)洞穴遺跡で国内最古級の化石人骨が発見され、「日本人の起源にかかわる歴史的な発見」として話題になった。日本の旧石器時代人を解明するカギが石垣島にある。先史時代から現代まで、写真や資料を多用して記述しており、歴史の流れが理解しやすい。関連資料も八重山全体と三市町の島々に関するデータをコンパクトに収録。年表も充実している。

 本書のもとになった中学生用副読本『八重山の歴史と文化・自然』(石垣市教育委員会編)は、「南京事件」や「従軍慰安婦」の記述が「見解の分かれる」事案として、昨年度以降、発刊が見送られている。学説上まったく問題のない内容であり、不当な政治介入があったとしか思えない。今後は、民間レベルで中・高生向けの副読本を再編し、指導内容を年間学習計画に位置づけ、指導事例集なども作成して学校現場で活用できるよう新たな運動を展開する必要があるだろう。

 せっかくの研究成果が、市民・県民の共有財産になっていないからだ。2012年度に沖縄歴史教育研究会が実施した高校生への歴史アンケートで、「明和の大津波」を知っている八重山の生徒は53・4%(県全体は25%)で、「人頭税(頭懸)」にいたっては、知っている生徒が29・3%(県全体は22%)しかいなかった。

 石垣市教育委員会は、教育の2本柱として「未来の担い手を育てる」「ひとりひとりの個性を育てる」を掲げているが、足元の歴史や文化をないがしろにして、未来を担う人材を育成することができるだろうか。

 (新城俊昭・沖縄大学客員教授)

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 「八重山を学ぶ」刊行委員会 代表は田本由美子。委員は石垣博孝、石垣繁、三木健、金武正紀、正木譲、島村賢正、石垣進、山里純一、得能壽美、松村順一、小林孝。