国と県が攻防 辺野古土砂投入、承認撤回


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 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、沖縄防衛局が8月17日にも辺野古海域に土砂を投入すると通告する中、翁長雄志知事は土砂投入前に埋め立て承認を撤回する方針だ。「撤回」は工事を強行する政府に対し、新基地建設阻止を掲げる翁長知事が取る対抗手段となる。撤回根拠として想定される問題や、今後予想される展開を紹介する。

<撤回の根拠>危険な軟弱地盤、環境保全不履行 県の要求、防衛局拒む

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、県は17日、軟弱地盤の危険性や環境保全措置の不履行を指摘し、即時工事停止を求める文書を沖縄防衛局に送った。護岸の実施設計を一部提出せずに工事前の協議は調ったとする防衛局に、全ての実施設計を一括で提出して協議するよう要求した。翁長知事が土砂投入前に埋め立て承認を撤回する際の主張の軸となるとみられる。

 翁長知事は、17日に送った行政指導に沖縄防衛局が応じないと判断した場合、埋め立て承認の撤回に踏み切る。県は沖縄防衛局に対し、前知事が埋め立てを承認した際の留意事項に違反していることなど行政指導を重ねてきた。防衛局はその度に反論し、工事を停止させていない。これまでの指導事項に従っていないことは埋め立て承認の撤回根拠となり得る。

 県は工事の現状が、承認申請書やその添付図書で示された施工方法や環境保全策と異なっていると指摘する。施工順序や環境保全措置を変更する場合は知事の承認が改めて必要となる。

 その一つに石材の運搬方法がある。沖縄防衛局は陸上に加え、環境保全図書になかった海上運搬も実施している。その際にK9護岸を利用。県は「当初の目的にない係船機能を持たせた施工をし、実施設計協議で示された設計内容と異なっている」と指摘してきた。

 環境保全図書で事業実施前にサンゴ類や海藻ウミボッスを移植すると定めているにもかかわらず、移植が完了しないまま、沖縄防衛局が護岸工事を続けていることも留意事項違反だとしている。

<今後の展開>政府は提訴の構え

 行政手続法では許認可の取り消しや撤回は「不利益処分」に当たることから、撤回に先立ち、相手から弁明を聞く「聴聞」の機会を設けるよう定めている。そのため県は撤回に向け、まず事業者の沖縄防衛局に対する聴聞を行うことが予想される。聴聞は実施の1~2週間前に通知するのが通例。さらに聴聞に対する防衛局の回答内容を精査するのに2週間程度が予想されるため、撤回は聴聞通知から3~4週間後になることが予想される。防衛局側が聴聞に応じない場合は内容の審査時間が短縮し、撤回が早まる可能性もある。

 政府側は埋め立て承認が撤回されれば工事を止める必要がある。政府は対抗措置として、撤回の効力を凍結する「執行停止」を裁判所に申し立てる予定。政府関係者は、裁判所は申し立てから2~3週間では執行停止を認めるかを判断するとみている。仮に裁判所が執行停止を認めた場合、工事は再開する。

 それと並行して政府は、県を相手取り撤回の正当性を争う代執行訴訟を起こす構えだ。県が勝訴すれば撤回は有効とされ、政府は埋め立て承認の再取得に向けた手続きを取らなければならない。国が勝てば知事の撤回処分は違法とされ、埋め立て承認が復活する。政府は、仮に代執行訴訟で勝訴した場合は、県に対する損害賠償訴訟を起こすこともちらつかせている。

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「取り消し」とは別物

 沖縄防衛局が公有水面埋立法に基づいて申請した辺野古海域の埋め立てを、仲井真弘多前知事は2013年末に承認した。その埋め立て承認を無効にする行政行為が撤回だ。県が撤回すれば、政府は新基地建設工事の最大の根拠を失う。

 翁長知事が15年10月にした「取り消し」とは異なる。取り消しは承認前の過程で違法性が確認された場合に認められる。一方、撤回は承認後に生じた事実を根拠とする。