『里海学のすすめ』 沖縄の3事例含め考察


社会
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『里海学のすすめ』 鹿熊信一郎、柳哲雄、佐藤哲編 勉誠出版・4536円

 本書は、沖縄でも古来から「海の畑」として利用してきた「シマの海」とか「村海」と呼ぶ沿岸域の浅い海を、世界に共通する「里海」の名のもとに里海づくりを考えるものという。編著者の鹿熊信一郎によれば「人が海と密接に関わる里海をつくることが、日本・世界の沿岸環境を保全し、水産資源を守る上で効果的である」こと。そのために海外事例4カ国、国内5地区の里海事例を分析「終章」で課題を整理している。

 里海の概念も、従来の浅い沿岸域から市町村、県単位の広域なものに広がってきているという。

 国内事例5地区の内、3地区が沖縄であることは、空港建設や大規模埋め立て、リゾート建設等の開発策と向き合ってきた現場からの回答にもなろう。

 (1)石垣市白保集落の事例は、世界自然保護基金が開設した研究センターと連携し取り組んだ白保集落14年間の地域づくり「サンゴ礁文化を継承する里海づくり」の実践報告である。(2)沖縄市漁業協同組合の場合は、県内第二の都市近郊の里海づくりで、漁業者によるNPO法人を母体に里海協議会という団体活動に拡大、多様な事業を展開している。(3)国頭郡恩納村の恩納村漁業協同組合の場合は、「モズク養殖とサンゴ礁再生で地方と都市をつなぐ」とある。全国でも屈指のリゾート地にあって、漁協の「地域漁業活性化計画―美海」に「生活の場としての海」を据え、都市のモズク購入者、流通加工業者等も加わり、経済的な価値を高めているという。

 里海学の分析視点で欲しかった点に現行漁業権制度の役割や評価の問題がある。戦後の漁業民主化を象徴する「漁業調整委員会」は、行政委員会の一つでありその審議内容には県知事への建議や委員会指示等強力な権限を認められている。この制度を有効に活用する議論が不可欠と思える。「里海学」の今後の展開に期待したいと思う。

 (上田不二夫・沖縄大学名誉教授)

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 かくま・しんいちろう 沖縄県海洋深層水研究所所長 水産資源管理専門。

 やなぎ・てつお 国際エメックスセンター・特別研究員。沿岸海洋学専門。

 さとう・てつ 愛媛大学教授。総合地球環境学研究所名誉教授。

里海学のすすめ: 人と海との新たな関わり
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